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会社法

取締役の第三者に対する責任(会社法429条)

投稿日 : 2018年06月17日

取締役の第三者に対する責任について解説します。

取締役の第三者に対する責任

会社法では一定の要件を満たす場合、取締役が第三者に対して責任を負うとされています。ここでいう第三者とは取締役が所属する会社以外の第三者を意味します。会社法の条文は以下のとおりとなっています。

会社法第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)

1 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。

一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第440条第3項に規定する措置を含む。)
(以下略)

この第三者に対する責任の性質について、判例は、会社が経済社会において重要な地位を占めていること、また、会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から規定した責任であると解しています。

責任が認められるための要件

取締役の第三者に対する責任が認められるための要件は以下のとおりです。

① 取締役がその職務を行うについて任務懈怠(義務違反)があったこと
② 取締役に悪意又は重大な過失があったこと
③ 第三者に損害が生じたこと
④ 取締役の任務懈怠と第三者の損害に因果関係があること

会社法429条の特徴は、上記のうち①の要件です。取締役は会社法上、善管注意義務・忠実義務を負っていますが、これらは会社に対する義務です。しかし、これらの義務に違反するような任務懈怠があった場合には、会社に対してのみならず、それによって損害を被った第三者(会社ではない)に対しても責任を負うとされているのです。

この規定は実務上、倒産した会社の債権者が会社の取締役に対して責任を追及し、債権回収を図るために使われることが多いようです。

直接損害と間接損害

第三者が被る損害には大きく分けて2種類あります。一つは直接損害で、文字どおり取締役の行為によって直接第三者が損害を被る場合です。例えば、会社の財務状態が悪化し、債務の履行や支払いの見込みがないにもかかわらず、商品を購入したり、手形を振り出すなどして取引の相手方に損害を与えるようなケースです。

これに対して、間接損害とは、取締役の行為によって会社が損害を被り、その結果として第三者が損害を被る場合です。例えば、取締役による会社の放漫経営によって会社が倒産し、会社債権者による債権回収ができなくなるようなケースです。

債権者に対する責任

(1)直接責任

判例に現れた事案としては例えば以下のようなケースがあります。

  • 会社の資産状態が相当悪化しており、手形を振り出しても満期に支払うことができないことを容易に予見することができたにもかかわらず、手形を振り出して取引先から鋼材の引渡しを受け、手形が支払不能となった結果、取引先に手形金相当額の損害を与えたとの事案において、代表取締役の責任を認めた。
  • 会社の取締役やその従業員が行った詐欺的な投資勧誘について取締役の責任を認める判例(多数)。

(2)間接責任

判例に現れた事案としては例えば以下のようなケースがあります。

  • 取締役が会社の資金繰りに窮して高利の金融に頼り、融通手形の交換を続け、ついには会社の売上の4分の1前後を金の支払いに充てざるを得なくなり、その結果、会社の負債を急増させて倒産させ、会社債権者の債権回収を不能にさせたという事案において、取締役の責任を認めた。
  • 会社が拡大方針に基づく新規の出版事業に失敗し、経営危機に陥ったことについて、取締役の採った経営方針が結果的に誤りであったことを認定しつつ、取締役は事業の運営に当たり不可避的に相当程度の不確定要素を含む判断を迫られるのであり、かような場合に取締役が実際にした判断が結果的に適切でなかったとしても、与えられた経営上の裁量権の範囲内であれば、取締役としての任務を懈怠したことにはならないとして責任を否定した。

株主に対する責任

株主に対する責任としては、特に間接損害が問題となります。取締役の任務懈怠によって会社が損害を被った場合、会社のオーナーたる株主も会社価値の毀損により間接的に損害を被ったといえます。その意味では株主にも取締役に対する責任追及を認めるべきという考えにも理由があるといえますが、他方で、株主は代表訴訟を通じて取締役の責任を追及できる等の理由から株主による責任追及を認めるべきでないという考え方もあります。(代表訴訟において株主が勝訴すれば、取締役は会社に対して損害を賠償する義務を負います。それによって会社の損害が回復し、結果として株主の損害も回復するという関係にあります。)

判例には、上場会社の業績悪化によって株価が下落するなど全株主が平等に不利益を受けた場合、特段の事情がない限り、そのような損害の回復は株主代表訴訟によるべきであり、取締役に対して直接責任を追及することはできないと判断したものがあります。同じ判決の中では、株式が公開されていない閉鎖会社について、特段の事情があるものとして取締役に対する直接の責任追及を認める余地があるとしています。

責任を負う取締役

(1)業務を執行した取締役

第三者に損害を与えるような業務を執行した取締役は、その職務を行うについて悪意又は重過失があった場合に責任を負います。代表取締役や業務執行取締役がこれに該当します。

(2)平取締役

取締役会には出席するものの、業務を執行したわけではない平取締役であっても、代表取締役や他の取締役に対する監視監督義務を負います。そのため、監視監督義務を怠ったことについて悪意又は重過失があれば責任を負うことになります。なお、平取締役の監視監督義務については取締役の職務・権限をご覧ください。

(3)名目取締役

取締役として選任されてはいるものの実際の会社経営には関わっていない取締役、すなわち名目取締役についても、監視監督義務を免れるわけではありません。そのため、やはり悪意又は重過失があれば責任を負うことになりますが、名目的な立場に鑑み、事案によっては悪意・重過失を否定したり、代表取締役の行為を是正することができなかったとして損害との因果関係を否定するケースもあります。

(4)事実上の取締役

取締役としては選任されておらず、選任の登記もない場合、本来であれば取締役としての責任は負わないはずです。しかし、事実上会社の経営者として振る舞い、業務を執行している者は会社法429条の類推適用により第三者に対する責任を負う可能性があります。

(5)取締役としての登記がある者

登記上は取締役としての表示がなされている場合(不実の登記)であっても、正式な選任手続きを経ていない場合、やはり取締役ではないので責任は負わないはずです。しかし、そのような不実の登記について承認を与えていた場合、取締役として登記されていた者は会社法908条の類推適用によって第三者に対する責任を負う可能性があります。

同様に、取締役を退任した者は第三者に対する責任を負わないはずですが、退任後も取締役としての登記が残存し、かつそのような不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの事情があれば、会社法908条の類推適用によって第三者に対する責任を負う可能性があります。

虚偽記載等に関する第三者に対する責任

一定の書類についての虚偽記載等があった場合、取締役がその行為を行うについて注意を怠らなかったことを証明しない限り、第三者に対する責任を負うことになります(会社法429条2項)。本来、取締役の悪意又は重過失については責任を追及する第三者が立証責任を負いますが、虚偽記載等については立証責任の転換を図られています。虚偽記載等の対象となるものについては、冒頭の条文の第2項をご覧ください。
        


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