英文MOUの注意点 Memorandum of Understanding

英文で締結される覚書の内容や注意点について解説します。

MOUが使われる場面

英文の覚書はMemorandum of Understanding(MOU)というタイトルで締結されます。MOUは国際取引の様々な場面で使われますが、最も多く使われるのは正式契約を締結する前に両社の暫定的な合意内容やその後に締結する正式契約の基本的条件を確認するために文書化する場合です。例えば、株式譲渡契約を締結する前段階としてMOUを締結する場合、MOUにおいて対象となる株式の数、譲渡金額、譲渡実施のスケジュール、デューデリジェンスの実施、優先交渉権、守秘義務などについて規定します。これらは最終的な正式契約の一部となる基本的条件であったり正式契約を締結するまでのプロセスや遵守事項であったりします。

LOIやタームシートとの違い

MOUと同じように正式契約前に使われる文書としてLetter of Intent(LOI)やタームシートがあります。これらも基本的にはMOUと同様の機能を果たす書面であり、正式契約に至る前の暫定的な合意事項等が記載されます。MOUと明確に使い分けられているわけではなく、タイトルが何であるかによって文書の性質が一義的に定まるものではありません。

LOIは一方当事者のみが意向表明として他方当事者に差し入れることもあり、その場合には合意事項というよりは契約申し込みに近いものとなります。また、タームシートは署名することもありますが、署名せずに契約条件について交渉するためのツールとしてのみ使われることもあります。

日本語の「覚書」との違い

日本の契約実務で使われる覚書と国際契約のMOUでは使い方が異なります。MOUは上記のとおり正式契約締結前の段階の暫定合意として使われるのに対し、日本の会社同士が締結する覚書が最も多く使われるのは契約を一部修正する場面です。例えば、契約の対象となっている商品・サービスの数量や代金を変更する、あるいは契約期間を延長するなどのために使われます。

英文契約を変更する場合にはMOUではなくAmendmentというタイトルで変更契約を締結することが多いといえます。

MOUの内容

MOUの内容はその合意内容に応じて様々であり、定まった書式があるわけではありません。ただ、取引に関する合意文書であり書面の形式としては通常の契約とそれほど大きく変わるものではありません。比較的簡素な内容とすることが多いので見た目には短めの契約というものとなります。

MOUは別途正式契約を締結することを前提とした内容となっており、そこで定めるべき内容としては以下のとおりです。

(1) どのような取引を目的としているか
(2) 正式契約に規定すべき基本的な契約条件
(3) 正式契約に向けたスケジュール
(4) 正式契約を締結する前提条件
(5) 守秘義務
(6) 拘束力の有無

常にMOUにおいて上記の全てを定めるわけではありません。ごく簡単に済ませる場合には上記の(1)(2)だけとするケースも見られます。

MOUの法的拘束力

正式契約を別途締結することが予定されている場合のMOUは通常拘束力がないもの(non-binding)として締結されます。MOUに規定された契約条件はあくまでも暫定的な合意内容であり、正式契約をもって法的拘束力のある契約となるからです。

法的拘束力がないといっても、会社同士の交渉を踏まえた合意事項であり、権限者が署名する文書です。そのため、MOUで定めた契約条件がそのまま正式契約の内容となる可能性が高いといえます。また、MOUを締結するということは、その内容がどの程度具体的なものであるかにもよりますが、契約内容の主要な部分について合意するということになります。正式契約でないからといって安易に締結してしまうと、その後の交渉において不都合が生じるおそれがあることに注意が必要です。

なお、MOUの規定の中でも秘密保持義務や優先交渉権については拘束力を有すると解されます。これらは正式契約で定められる合意内容とは異なり、MOUに固有の合意事項だからです。

コメント

重要な契約の暫定合意としてMOUを締結する場合にはMOUの段階から専門家に相談することをお勧めします。MOUの段階からその内容をしっかりと検討する必要があるからです。

MOUは英文の契約書となるので相手方である海外企業から原案を示されることも多いと思います。その場合、やはり作成者である相手方寄りの内容となっている可能性がありますし、自社にとって当然入れておかなければならない内容が欠けている可能性もあります。MOUの段階からそのような点のチェックを行うことで契約締結に伴う法的リスクを抑えることができると思います。