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契約書

覚書の効力(法的拘束力)

投稿日 : 2018年05月28日

覚書の効力(法的拘束力)について解説します。

覚書とは

覚書とは何であるかについて法律上の定義はありません。実務で用いられる覚書はその内容や役割も様々です。企業間取引において覚書が用いられる場面は例えば以下のとおりです。

  • 既に締結済みの契約書の一部を修正する(変更合意書としての機能)。例えば、取引条件の一部を変更したり、不足している内容を補充したりする場合です。この目的で作成する覚書についてはこちらの記事(覚書による契約内容の変更とその注意点【書式例付き】)をご参照ください。
  • 契約の交渉において、暫定的に合意できた事項を記録に残す。主として契約の大きな枠組みや基本的な条件について取り決めることが多いといえます。
  • 何らかの事情で契約書という形式にすることを避けるため、内容的には契約書と見うるものであってもタイトルだけを覚書とする。
  • 個別具体的な案件について事実や認識の記録として作成する。

上記のとおり、覚書は法律文書を作成することの前提として、あるいは補助するものとして、さらには法律文書そのものとして用いられます。覚書というだけでどのような性質の文書であるかが定まるものではなく、その内容や締結の経緯から判断することになります。

覚書の形式

覚書を締結するのに定まった形式はありません。「覚書」というタイトルの下、記録したい内容を記載したうえで、関係当事者が記名押印(署名も可。以下同じ。)することが多いといえます。一方の当事者のみが記名押印し、他方当事者に差し入れることも可能です。差入れ形式の場合、文書のタイトルは覚書ではなく「念書」とするのが一般的であると思います。

記名押印がないものもありえますが、そうなると文書単体では後述する法的な拘束力は認められません。当事者間で交わされたメモ程度の位置づけとなります。

覚書の効力(法的拘束力)

覚書に法的拘束力はあるのかという問題がありますが、これはケースバイケースです。法的拘束力がある場合もあれば、ない場合もあります。覚書の記載内容や覚書が締結された経緯から見て、当事者に法的拘束力のある合意として扱う意思があったと認められれば法的拘束力を有します。しかし、当事者間にそのような意思があったと認められない場合には法的拘束力を有しません。

上記のとおり、覚書が法的拘束力を有するか否かは事案によります。相手方から覚書を提示されて締結を求められても、タイトルだけで判断せず、中身を精査して、法的な義務を生じさせるような内容・文言となっているかを確認する必要があります。

一つの覚書の中に拘束力のある条項と拘束力のない条項が混在していることもあります。前者の例としては、正式契約の前に締結する覚書の中に含まれる一定期間の独占交渉権を定める条項や守秘義務条項などがあります。

覚書の内容が適切なものであるかを確認する

当然のことではありますが、覚書に記載された内容そのものが自社の意図に沿ったものであるか否かを確認する必要があります。このことは法的拘束力がない覚書であっても変わりはありません。覚書は単なる口約束ではなく、れっきとした文書です。企業間取引において文書化された事項にはそれなりの重みがあります。覚書を締結する前には内容面の精査は欠かせません。

仮に覚書の効力を軽視してその内容に違反するようなことがあれば当然相手方は黙っていません。無用のトラブルを防止するためにも、守れない約束はしない、約束したら守る、というのが原則です。

契約の交渉過程において基本事項を確認する覚書を締結するような場合、その後事情が変わらない限り、正式契約においても同じ内容とするのが通例です。正式契約において覚書と異なる内容とするのは容易ではありません。そのため、交渉過程の暫定的な覚書であっても、やはり内容を十分吟味する必要があります。

覚書の法的拘束力を認めた裁判例

覚書の法的拘束力を認めた裁判例として以下のものがあります(松江地判平27・12・14)。

【事案の概要】
自治体(原告)と養豚場を営む会社(被告)との間で締結された養豚場からの排水の環境基準等を定めた覚書の法的拘束力が争われた。訴訟において会社は、覚書は有効でない、仮に有効であるとしても、努力目標ないし紳士協定に過ぎず、法的義務を定めたものではないと主張。

【裁判所の判断】
本件排水基準の合意について法的拘束力があるか否かについては、契約内容の一般的有効要件に加え、当事者の合理的意思を解釈して決すべきである。本件の合意に契約内容について一般的有効要件に欠ける点はない。また、合意の文言として、「生物化学的酸素要求量(BOD)20mg/L以下の排水をJ川に放流するものとする。」との文言が用いられていることや、被告代表者が覚書を締結した際に原告からその遵守を求められていた経緯からして、被告代表者は法的拘束力があることを前提に覚書を締結したといえる。(結論として裁判所は覚書の法的拘束力を認めた。)

覚書の法的拘束力を否定した裁判例

覚書の法的拘束力を否定した裁判例として以下のものがあります(東京地判平25・4・18)。

【事案の概要】
コンサルタント会社である原告が中古ソフト等の買取り・販売等を行う被告会社のグループ会社にコンサルティング業務を行ったと主張して、両社間で締結された覚書に従った成功報酬の支払等を求めた。被告会社は問題となった覚書は会社間において何らかの法的効力を生じさせる趣旨の書面ではないとして争った。

【裁判所の判断】
本件の覚書は被告会社等の取締役会で諮られた形跡はない。本件の覚書は被告会社の代表者の肩書なしの個人名での署名がされ、押印もされないままに作成されている。本件の合意は今後進める予定の協議内容の方向性を確認したというべきものであって、被告会社等の会社組織としての最終的な合意事項を定めたものと認めることはできない。さらに、本件の覚書の記載内容はいまだ一般的抽象的かつ宣言的なものにとどまっており、特定の相手方に対して具体的かつ特定した法的義務を負担させる内容となっていない。これらの事情からすると本件の覚書に基づく報酬支払合意の成立は認められない。

まとめ

覚書は実務で頻繁に目にしますが、その法的な位置付けや効力については曖昧なままに締結されることがあると思われます。それがある意味では使い勝手の良さでもありますが、場合によってはその効力を巡って紛争になることもあります。自社として覚書に法的拘束力を持たせたい、あるいは持たせたくないことが明確である場合にはその旨規定しておくこともご検討ください。

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