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債権回収

強制執行(差押え)の要件

投稿日 : 2018年01月19日

強制執行(差押え)の要件について解説します。

強制執行(差押え)とは

強制執行・差押え

強制執行とは、判決などによって得た権利の内容を裁判所の手続きによって強制的に実現する制度です。例えば、上の図で自社が取引先に売掛債権を有しており、訴訟を提起して勝訴判決を得たとします。それにもかかわらず、取引先が判決で命じられた内容を任意に履行しない場合、取引先の資産(不動産・動産・債権)を差し押さえ、これらを換価することで債権回収を図ることができます。

強制執行には金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行と、金銭の支払いを目的としない権利(例:不動産の明け渡し等)についての強制執行の2種類があります。本稿では前者の金銭債権に関する強制執行を説明します。

ここで、一般には似たような使われ方をすることがある「強制執行」と「差押え」という言葉の関係について整理しておきます。上に述べたとおり、強制執行とは判決等の内容を強制的に実現するための一連の手続きを意味します。そして、その強制執行の手続きにおいて、対象となる資産について債務者による処分を禁じる命令を「差押え」といいます。すなわち、差押えは強制執行手続きの中の1つのプロセスと位置付けられます。

強制執行(差押え)に必要な要件

(1)債務名義

強制執行を行うためには債務名義が必要となります。債務名義とは、強制執行によって実現されることになる請求権の存在と内容を示した公的な文書です。

債務名義の典型は確定した判決ですが、それ以外にもあります。主なものとしては以下のとおりです。

債務名義の種類

説明

確定判決

上訴等をすることができず、その内容を争うことができなくなった判決です。例えば、地裁で判決が下されて高裁に控訴されなかった判決がこれにあたります。控訴されて高裁で審理が行われている場合には確定していません。

仮執行の宣言を付した判決

仮執行宣言とは、判決が確定していなくてもその執行をすることができるとする裁判所の宣言です。裁判所が判決をする際にこの宣言が付されることがあります。

仮執行の宣言を付した支払督促

支払督促とは裁判所を通じて督促する手続きです。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

執行証書

金銭債権等について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行を受けても異議がない旨が記載されているもの。

確定判決と同一の効力を有するもの

例えば、裁判上の和解における和解調書、民事調停における調停調書、各種倒産手続きにおける債権者表の記載。

上記のうち多くを占めるのは判決と支払督促です。司法統計(平成28年度)によれば、強制執行既済事件の総数121,378件のうち判決が71,810件(全体の59%)、支払督促が25,821件(全体の21%)となっています。

債権者が債務名義を得る過程では、強制執行を受ける立場となる債務者に対して何らかの手続き保障がなされています。例えば、判決に至るまでには債務者(訴訟における被告)は反論を行う機会が与えられます。また、支払督促においては債務者が異議を出すことで通常訴訟に移行します。このように、債権者が債務名義を得るまでには慎重な審査がなされる一方、一旦所定の手続きを経て権利が確定した場合には、その権利の実現は迅速になされる必要があります。そこで、権利実現のプロセスである強制執行においては債務名義に示された権利の正当性について改めて審査することはせず、それが正しいことを前提に手続きが進行します。

(2)債務名義の送達

債務名義は、その正本又は謄本が債務者に送達されなければなりません。これは、債務者に対して当該債務名義に基づいて強制執行が行われることを知らせて防御の機会を与えるためです。債務名義のうち、判決と仮執行宣言付き支払督促は裁判所が職権で送達してくれます。そのため、改めて送達を申し立てる必要はありません。これに対し、各種の調書(確定判決と同一の効力を有するもの)は職権では送達されないので、送達を申し立てる必要があります。また、執行証書も送達が必要です。執行証書は公証人に対して送達を申し立てます。

(3)債務名義への執行文の付与

強制執行を行うためには債務名義に執行文が付与されていなければなりません。執行文とは、債務名義に執行力(執行できる効力)があることとその範囲を証明する文言です。債務名義に基づいて強制執行を行って良いか否かを明らかにするためのものです。執行文を付与する機関は、判決、支払督促、各種調書については事件の記録の存する裁判所の書記官です。執行証書については公証人が付与します。

例外として、少額訴訟の判決、仮執行宣言付き少額訴訟の判決、仮執行宣言付き支払督促については執行文は不要とされています。

執行文には、単純執行文、条件成就執行文、承継執行文の3種類があります。それぞれ以下のとおりです。

【単純執行文】債務名義の内容そのままの執行力を証明する執行文。

【条件成就執行文】債務名義に表示された請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合において、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに付与される執行文。例えば、請求が認められるための条件が付されている場合に当該条件が成就したことを示す必要があります。また、請求について不確定期限が設定されている場合、当該期限が到来したことを示す必要があります。

【承継執行文】債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文。例えば、債務者が死亡して相続人が債権債務を引き継いだ場合、法人の合併によって別法人が債務者となった場合、債権譲渡によって権利者が交代した場合等があります。

(4)執行文等の送達

条件成就執行文と承継執行文が付与された場合、当該執行文及びその執行文を得るために債権者が提出した文書の謄本が債務者に送達されなければなりません。条件が成就したことや、債務名義に表示された当事者以外に強制執行がなされることを債務者に知らせるためです。

(5)債務名義と執行文のまとめ

債務名義や執行文に関する要件をまとめると以下のとおりです。

債務名義の種類

債務名義の送達の申立て

執行文

執行文等の送達

確定判決

不要(職権で送達される)

原則必要

執行文の種類により異なる

仮執行の宣言を付した判決

不要(職権で送達される)

原則必要

執行文の種類により異なる

仮執行の宣言を付した支払督促

不要(職権で送達される)

不要

不要

執行証書

必要

必要

執行文の種類により異なる

確定判決と同一の効力を有するもの

必要

必要

執行文の種類により異なる

(6)その他の要件

【確定期限】債務名義に表示された請求権に確定期限が付されている場合、その確定期限の到来後、強制執行を行うことができます。これに対し、不確定期限については執行文付与において判断されます(上記(3))。

【立担保の証明】担保を立てることが強制執行の実施の条件とされている場合、債権者が担保を立てたことを証明する必要があります。供託書や保証委託証明書が用いられます。

【反対給付の証明】債務名義の対象となる債務の履行が反対給付と引換えになすべきとされている場合、債権者の側で反対給付をしたことを証明する必要があります。例えば、反対給付に係る支払い等の領収書を提出することが考えられます。また、執行官が執行する場合には執行の現場で反対給付の提供をするという方法もあります。

【代償請求の執行】ある債務に係る強制執行の目的を達することができない場合に、その債務に代えて別の債務の履行をすることとされている場合があります。例えば、何らかの物件の引渡しを命じる判決において、執行ができないときには一定の金額を支払うことを命じる場合があります。そのような場合、物件の引渡しについて強制執行ができなかった場合にのみ金銭支払いの強制執行をすることができます。強制執行ができなかった事実は執行調書によって証明することができます。

【倒産手続きが開始されていないこと】債務者について破産等の倒産手続きが開始されていると強制執行ができなくなります。

上記の要件が満たされたか否かは、執行機関たる裁判所又は執行官が判断します。

強制執行(差押え)の対象となる資産

金銭債権に関する強制執行の場合、一定の例外を除き、全ての債務者の資産が差押えの対象となります。主なものとしては以下のとおりです。

  • 不動産(土地・建物)
  • 動産(有価証券、現金、貴金属等)
  • 債権(売掛債権、貸金債権等)

強制執行(差押え)の手続き

強制執行(差押え)の手続については、不動産、動産、債権のそれぞれについて稿を改めて解説します。
          


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