内部通報窓口を会社の顧問弁護士が務めるケースがあります。しかし、顧問弁護士はあくまでも会社側の立場にあると見られてしまい、通報者が通報をためらうおそれがあることに留意が必要です。
通報者が通報をためらうおそれ
通報者は会社の法令違反や何らかの問題について報告したい、あるいは改善を求めたいと考えています。そして、通報のために設けられた窓口が顧問弁護士である場合には、通報者の匿名性が保たれないのではないか、通報した事項が適切に処理されないのではないかという疑念を抱くおそれがあります。その結果、通報を躊躇してしまい、内部通報制度が適切に機能しなくなることが懸念されます。消費者庁の「内部公益通報対応体制の整備に関するQ&A」においても、「顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とすることが妨げられるものではありませんが、顧問弁護士に内部公益通報をすることを躊躇(ちゅうちょ)する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることに留意が必要です。」とされています。
通報を行うことは通報者にとって極めて心理的ハードルが高い行為です。ただでさえ通報者は身バレや報復のリスクを考えて通報をためらいがちです。その窓口が日常的に会社に助言している顧問弁護士であるとすれば、やはり通報のハードルは高くなってしまいます。
もちろん、顧問弁護士が通報窓口となっている場合であっても、当該弁護士は通報者の同意なく通報者を特定する情報を会社に伝えてはなりませんし、通報窓口業務と顧問業務とは区別して行います。ただ、通報者の立場からするとどうしても顧問弁護士イコール会社の味方のように見られがちです。
利益相反が生じるおそれ
顧問弁護士が通報窓口として通報者から通報を受け、その後、会社と通報者が当該通報の対象となった事項について紛争になることがあります。例えば、社内でパワハラを受けたとする通報について、問題がこじれて通報者が会社に損害賠償を求める場合などです。この場合、通報窓口となった顧問弁護士は会社を代理しても良いかという点が問題となります。通報窓口として通報者の相談を受けた以上、窓口となった弁護士は通報者から一定の信頼の下相談を受けることになります。にもかかわらず、紛争になった場合に会社を代理して通報者を相手方とするのは利益相反となるおそれがあります。
顧問弁護士以外の弁護士を通報窓口とする対応
通報者が通報をためらうおそれがないようにするため、また、利益相反が生じることを避けるためには、顧問弁護士ではない弁護士を外部通報窓口とすることを検討するべきと思われます。