企業等の事業者が内部通報制度を導入するメリットについて解説します。
不正行為の早期発見
これだけコンプライアンスの重要性が意識されるようになっても企業等における法令違反、不祥事はなくなりません。特に不正行為が組織的に行われている場合や権限者の了承の下で行われている場合には通常のレポーティングラインを通じて不正の報告がなされたり、あるいは是正がなされることは期待できません。
内部通報制度を設けることで、そのような不正行為を早期に発見することが可能となります。内部通報窓口があれば、不正行為を認識した社員等から通報窓口を通じて報告が上がり、問題を早期に発見することができます。また、通報を契機に社内調査を行い、不正行為が確認された場合には是正措置をとることもできます。このように内部通報制度は不正行為・不祥事の早期発見に極めて大きな役割を果たします。
消費者庁の調査によると、通報窓口を設置している民間事業者において過去1年間に通報が1件以上あった事業者の割合は51.6%にのぼるとのことでした(消費者庁「平成2 8年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」)。約半数の事業者が年に1件以上の通報を受けていることになり、窓口を設置することで相応の通報が寄せられることが期待できるといえます。
不正行為の未然防止・牽制効果
内部通報窓口が設置され、そのことが社内で周知されていれば、将来の不正行為に対する牽制効果が期待できます。社内に不正行為を行おうとする者がいたとしても、内部通報窓口があれば通報による発覚を恐れ、不正行為を思い止まる可能性が高まるからです。
上記の消費者庁の調査においても、通報窓口を設置している民間事業者へのアンケートにおいて、通報窓口設置の効果として、「従業員等による違法行為への抑止力として機能している」(回答者の49.4%)、「内部の自浄作用によって違法行為を是正する機会が拡充された」(回答者の43.3%)という回答がなされており、その効果がうかがわれます。
外部への通報を防止する効果
内部通報窓口が設置されていない場合、不正行為の発見者は会社の外部である監督官庁やマスコミ等の報道機関に通報するおそれがあります。そのような外部の機関に通報がなされた場合、会社にとって予期せぬ形で不正行為が公表され、会社の社会的評価に深刻なダメージを与えるおそれがあります。また、その対応に追われる負担も重たいものです。
しかし、内部通報窓口が設置されていれば不正行為の発見者は当該窓口を利用することができます。発見者が内部通報窓口を通じて不正行為を通報すれば、会社としては外部に伝わる前にこれを認識することができ、状況をコントロールしながら社内調査と是正措置を進めることができます。最終的に外部に公表することになった場合でも、調査の結果等を踏まえた適切な情報開示を行うことで会社の社会的評価へのダメージはかなり抑えられるはずです。
外部評価の向上
内部通報窓口を設置することは不正行為の発見や予防以外に外部評価を向上させるという効果もあります。すなわち、内部通報窓口を設置することで不正行為に対応する制度が整っていると評価され、取引先との関係で契約・調達において有利に働く可能性があります。特に最近は大企業を中心に取引先に対するコンプライアンス体制の充実を求める動きがありますし、上記の消費者庁の調査においても、内部通報制度を導入している民間事業者は、他の条件が同じである場合、実効性が高い内部通報制度を整備・運用している事業者との取引を選択したいかという質問に対し、89.4%が「(選択したいと)思う」と回答しています。
また、採用活動においても内部通報窓口の設置によって不正行為に対応する仕組みを整えていることは求職者に対して会社への安心感を与える材料になると思われます。
まとめ
上記のとおり内部通報窓口を設置し、制度を整えることには様々なメリットがあります。特に不正行為の早期発見は会社のリスク軽減にとって極めて重要であるといえます。そのようなメリットの大きさに比して通報窓口の設置にはそれほどコストがかかるものではありません。300人以下の企業であって法令上の設置義務を負わない場合であっても積極的に導入することが推奨されます。