内部通報制度の導入の義務化について解説します。なお、公益通報と内部通報は厳密には通報の対象となる事実などが異なりますが、本稿では分かりやすさの観点から特に区別せずに述べます。
300人を超える労働者を使用する事業者は内部通報制度が義務化
2020年6月に公益通報者保護法が改正され、改正内容は2022年6月に施行されました。この改正において最も重要な内容は、常時300人を超える労働者を使用する事業者に対し、内部通報制度の整備を義務付けたことです。対象となる事業者は内部通報制度を導入し、これを整備する法令上の義務があります。後述するとおり、これを遵守しなかった場合、監督官庁から指導・勧告を受けるおそれがあるほか、場合によっては事業者名を公表されるおそれがあります。
300人以下の事業者であっても努力義務を負う
上記のとおり、法令上の義務を負うのは300人を超える事業者に限られますが、300人以下の事業者であっても努力義務を負います。すなわち、300人以下の事業者は公益通報者保護法において内部通報制度の整備を行うよう努める義務を負っています。
法的義務ではないにせよ、例えば100人を超えるような会社であれば経営者が隅々まで目を行き届かせるのは難しくなり、組織内の不正リスクに対処する必要性はあると思われます。また、業種によっては人数が多くなくても外部への委託を活用するなどして大規模なビジネスを行っている会社もあります。そのような会社においては仮に300人の要件を満たさなくても内部通報制度を導入することを検討すべきといえます。
内部通報制度として整備するべき内容
公益通報者保護法において義務付けられている内容としては、
(1) 通報を受け、通報対象事実の調査をし、その是正措置をとる業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定める
(2) 通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置をとる
というものです。
上記の(1)にある従事者は、要するに内部通報を取り扱う担当者を定めるというものです。この従事者は通報対応業務に関して通報者を特定させる情報を取り扱う関係で、当該従事者は法令上罰則付きの守秘義務を負っています。
上記の(2)にある体制の整備について、内閣府の指針によれば以下の措置を取らなければならないとされています。
【部門横断的な通報対応業務を行う体制の整備】
①内部通報受付窓口の設置等
②組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
③通報対応業務の実施に関する措置
④通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
【通報者を保護する体制の整備】
①(通報者に対する)不利益な取扱いの防止に関する措置
②範囲外共有等の防止に関する措置
【内部通報対応体制を実効的に機能させるための措置】
①労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
②是正措置等の通知に関する措置
③記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
④内部規程の策定及び運用に関する措置
上記のとおり、内部通報制度として整備すべき事項は多岐にわたります。法令上の要件を確実に満たすためには専門家のアドバイスに基づいて内部通報制度の導入・整備を進めることをお勧めします。内部通報制度は事業者の実情に応じて整備すべきものですが、何をどこまで行えば良いかについても相談することができます。