

労働問題
労働時間とは?企業が気を付けるべき労働時間の基本ルールを解説
投稿日 : 2024年06月23日労働者を雇っている企業が気を付けなければならないのは、労働時間の管理です。労働基準法では、労働時間に関するさまざまなルールを定めていますので、しっかりと把握しておかなければ、違法な長時間労働や未払い残業代などの労働問題に発展する可能性もあります。
どこからどこまでが労働時間に該当するか曖昧になりやすい時間もありますので、判断のポイントをきちんと押さえておきましょう。
本コラムでは、企業が気を付けるべき労働時間の基本ルールを解説します。
1 労働時間とは?
労働基準法では、1日8時間・1週40時間を法定労働時間と定めており、法定労働時間を超えて働かせるためには、36協定の締結・届出が必要になります。また、労働者に時間外労働をさせた場合には、割増賃金の支払いが必要になります。このように、労働時間にあたるかどうかによって、残業代の支払いの要否が変わってきますので、企業としては、どのような時間が労働時間に該当するかをしっかりと押さえておくことが大切です。
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間と定義されています。すなわち、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかが判断のポイントなります。具体的には、以下の要素を踏まえて、指揮命令下に置かれた時間であるかを判断します。
・明示または黙示の指示の有無
・時間的、場所的拘束性の有無
・業務との関連性の有無および程度
・業務提供行為の有無
2 【ケース別】労働時間に該当するかの判断のポイント
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間ですが、それだけではどのような時間が労働時間に該当するかわからないという方も多いと思います。そこで、以下では、労働時間該当性が問題になりやすいケースごとに、労働時間に該当するかの判断のポイントを説明します。
2-1 始業前の着替え時間
業務にあたって制服や作業服の着用が義務付けられている場合、始業前に制服などの着用のための時間が必要になります。実際に働いている時間ではありませんが、就業を命じた業務に必要な準備行為にあたりますので、これらの時間は労働時間に該当します。
2-2 始業前の朝礼・ミーティング時間
始業前に朝礼やミーティングの時間が設けられている場合、朝礼やミーティングへの参加が義務付けられている場合には労働時間に該当する可能性があります。朝礼やミーティングで業務遂行に必要となる情報伝達がなされているような場合や不参加に対して査定上不利に扱われるような場合も労働時間性を補強する事情となります。
2-3 仮眠時間や待機時間
警備員や宿直・当直などの業務では、夜勤をする際に仮眠時間が設けられることがあります。仮眠時間を休憩時間として扱い労働時間に含めていない企業もあるかもしれませんが、以下のような事情がある場合には、労働時間に該当する可能性があります。
・仮眠室で過ごすことが義務付けられている
・仮眠時間中に呼び出しがあれば対応しなければならない
・仮眠時間中の呼び出しが一定の頻度で生じる
実作業を行っているかどうかではなく、指揮命令下に置かれているかどうかが判断のポイントとなります。
2-4 待機時間(手待時間)
待機時間とは、実作業を行っていないものの次の作業に備えて待機している時間をいいます。このような時間を「手待時間」と呼ぶこともあります。具体的には、以下のようなものが待機時間にあたります。
・トラックドライバーが荷物の積み降ろしを待っている時間
・休憩時間中の来客や電話対応の時間
・店番の待機時間
待機時間が労働時間に該当するかどうかも、使用者に指揮命令下に置かれているかどうかによって判断します。そのため、実作業を行っていなかったとしても、完全に業務から解放されていなければ労働時間に該当するといえます。
2-5 研修・勉強会への参加時間
企業によっては、必要な知識の習得やスキルアップのために定期的に研修や勉強会を開催しているところもあるでしょう。使用者により研修や勉強会への参加が義務付けられている場合には、労働時間にあたります。しかし、参加が義務付けられていなかったとしても、以下のような事情がある場合には、労働時間に該当する可能性があります。
・担当する業務を遂行するにあたって必要不可欠な研修である
・研修や勉強会への参加状況を評価の対象にしている
・研修や勉強会に参加しない労働者に対して嫌がらせをしている
2-6 持ち帰り残業の時間
使用者の指示により労働者が自宅に仕事を持ち帰って残業をしている場合には、労働時間にあたります。使用者による明示的な指示がなかったとしても、以下のような事情がある場合には、労働時間に該当する可能性があります。
・通常の業務時間内に処理することができないような業務量だった
・持ち帰り残業をしていることを認識していながら黙認していた
・持ち帰り残業をしなければ期限までに処理できない状況だった
2-7 取引先との接待・会食の時間
営業職だと取引先との接待や会食に参加する機会が多くなります。取引先との懇親目的で参加する接待や会食は、業務との関連性が希薄ですので、使用者による指示がなければ、基本的には労働時間には該当しません。
しかし、接待や会食中に商談を行う場合や司会進行などの業務が発生する場合には、労働時間に該当する可能性があります。
3 企業が労働時間の扱いを誤った場合に生じるリスク
企業が労働時間の扱いを誤った場合には、以下のようなリスクが生じます。
3-1 労働者からの未払い賃金請求
労働時間に該当する場合、企業は、労働者に対して賃金を支払う義務があります。また、その時間が時間外労働、深夜労働、休日労働に該当する場合には、割増賃金の支払いも必要となります。
労働時間であるにもかかわらずそれを労働時間として扱っていない状況だと、賃金などの未払いが生じている状況になりますので、労働者から未払い賃金請求を受けるリスクがあります。裁判にまで発展し、賃金不払いが悪質だと判断されると、未払い賃金と同額の付加金の支払いを命じられるリスクもありますので、企業の経済的負担は非常に大きくなります。
3-2 労働基準法違反による罰則
使用者が36協定の締結・届出をすることなく残業をさせた、時間外労働の上限規制に違反した、割増賃金の未払いがあった場合などはいずれも労働基準法違反となります。
このような違反があった場合には、使用者に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
3-3 企業名の公表
違法な長時間労働が常態化している企業では、それに対する制裁として、企業名が公表されるリスクがあります。
企業名が公表されてしまうと「ブラック企業」とのレッテルを貼られてしまい、企業の社会的信用性は大きく失墜してしまいますので、取引先や顧客を失うおそれがあります。また、企業名が公表されると当該企業への就職希望者が減少し、離職者が増加するなど優秀な人材が集まらず、企業の経営上大きな損失となってしまいます。
このようなリスクを避けるためにも、労働時間の管理は適正に行うことが重要です。
4 労働時間の適正管理のために弁護士ができること
労働時間を適正に管理するためには、労働関係法令の正確な知識と理解が不可欠です。そのため、労働時間の適正管理を検討している場合には、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
4-1 労働時間の基本的なルールをアドバイスできる
労働時間に該当するかどうかは、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」といえるかによって判断します。しかし、この判断要素は非常に抽象的な内容ですので、具体的な事案においては、労働時間に該当するかどうか悩む場面も多いと思います。
労働時間性の判断にあたっては、専門家である弁護士のアドバイスが必要になりますので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士であれば、同種事案の裁判例やこれまでの知識・経験などに基づいて、労働時間に該当するかどうかを正確に判断することができます。
労働時間に関しては、労働者との間でトラブルが生じやすい項目の一つですので、そのようなトラブルを回避するためにも早めに弁護士に相談するのがおすすめです。
4-2 労働者対応を任せることができる
労働者との間で労働時間をめぐるトラブルが生じてしまうと、企業の経営者や担当者は、トラブル対応に時間と労力を割かなければなりません。そうすると本来の業務に手が回らず、業務に支障が生じてしまうケースもあります。また、トラブル対応の初動を誤ってしまうと、労働者とのトラブルが深刻化し、裁判にまで発展してしまうおそれもあります。
そのため、このような労働者とのトラブルが生じたときは、専門家である弁護士に対応を任せるのがおすすめです。弁護士であれば企業の代理人として労働者との交渉を担当することができますので、企業側の負担は大幅に軽減します。また、法的観点から適切な対応を行うことができますので、迅速にトラブルを鎮静化させることができるでしょう。
4-3 労働審判や裁判にも対応できる
労働者との話し合いではトラブルが解決できない場合、労働者から労働審判を申し立てられたり、訴訟を提起される可能性があります。
労働審判は、裁判に比べて早期に決着できるというメリットがありますが、その反面、限られた時間内に適切な主張立証を行わなければ、会社側に不利な判断が出てしまうリスクもあります。そのため、労働審判を申し立てられた場合には、初回期日までに迅速に準備を進めていかなければなりませんので、早めに弁護士に相談することが大切です。
また、裁判は、非常に専門的かつ複雑な手続きになりますので、弁護士のサポートがなければ適切に手続きを進めていくことができません。誤った対応をしてしまうと本来勝てるはずの裁判に負けてしまうリスクもありますので、裁判対応は専門家である弁護士に任せるのが安心です。
5 まとめ
今回は、労働者との間でトラブルが生じやすい「労働時間」に関して、その判断基準や問題になりやすいケースごとの判断のポイントを解説しました。
労働時間の把握や管理は、企業側の義務ですので、労働者とのトラブルを防ぐためには、労働時間の適正な管理が必要になります。そのためには、専門的な知識が必要となりますので、まずは専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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サイト管理人/コラムの著者
弁護士 赤塚洋信
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