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労働問題

残業時間の上限とは?企業が遵守すべき残業時間のルールと対策を解説

投稿日 : 2024年07月10日

労働者の長時間労働を改善することを目的として2019年4月から残業時間の上限規制に関するルールが厳格化されました。当初は、大企業のみを対象とした規制でしたが、徐々に対象が広がり、2024年4月からはすべての企業に対して適用されることになりました。

残業時間の上限規制に違反した場合にはさまざまなリスクが生じますので、経営者の方は、残業時間の上限規制のルールを遵守しているかしっかりと確認し、違反しないよう対策をしていく必要があります。

本コラムでは、企業が遵守すべき残業時間の上限規制とその対策について、わかりやすく解説します。

1 残業に関する基本的なルール

残業に関してはどのようなルールが定められているのでしょうか。残業時間の上限規制の説明の前に、まずは残業に関する基本的なルールをおさらいしましょう。

1-1 法定労働時間とは

法定労働時間とは、労働基準法によって定められた労働時間の上限です。労働基準法では、1日8時間・1週40時間を法定労働時間として定めていますので、原則として、これを超えて労働者を働かせることはできません。

これに対して、企業が独自に設定している労働時間の上限を「所定労働時間」といいます。所定労働時間を超えて働かせることは、契約上の根拠があり、かつ法定労働時間の範囲内であれば可能です。

1-2 法定外残業と法定内残業の違い

法定外残業とは、法定労働時間を超えて残業をさせることをいいます。法定外残業をさせた場合には、所定の割増率により増額した割増賃金の支払いが必要になります。

法定内残業とは、所定労働時間を超え法定労働時間の範囲内の残業をいいます。法定内残業は、法定外残業とは異なり、割増賃金の支払いは不要です。

このようにどちらの残業に該当するかによって、企業の割増賃金の支払いの要否が変わってきまので、しっかりと区別することが大切です。

1-3 残業を命じるには36協定の締結・届出が必要

法定労働時間を超えて労働者に残業を命じることは原則としてできません。しかし、企業と労働者の代表者との間で36協定を締結し、それを労働基準監督署長に届出することにより、例外的に時間外労働(法定外残業)を行わせることが可能になります。

なお、36協定では、「時間外労働の上限」や「時間外労働を行う業務の種類」などを決めなければなりません。

2 残業には上限あり!残業時間の上限規制とは?

労働時間に法定労働という上限があるように、残業時間にも上限が設けられています。以下では、残業時間の上限規制について説明します。

2-1 残業時間は月45時間・年360時間が上限

36協定の締結・届出をすることで、労働者にいくらでも残業をさせられるというわけではありません。長時間の残業は、肉体的・精神的ストレスを蓄積させ、過労死や健康障害などのリスクが高まるため、それを抑止する目的で、残業時間の上限が設けられています。

残業時間は、月45時間・年360時間が上限となっています。企業としては、基本的には、この残業時間の上限規制を守って労働者への残業を行わせなければなりません。

2-2 特別条項付き36協定により上限を超えた残業も可能

残業時間の基本的な上限は、月45時間・年360時間ですが、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付きの36協定を締結・届出することにより、例外的に残業時間の上限を超えて残業を命じることができます。

臨時的な特別の事情がある場合とは、当該事業場における通常予見することができない業務量の大幅な増加などに伴い、臨時的に残業時間の上限を超えて働かせる必要があると認められる場合をいいます。具体的には、以下のような事情がこれにあたります。

・予期せぬ納期変更などにより納期がひっ迫している場合

・予期せぬ大規模なクレーム対応が必要になった場合

・予期せぬ重大な機械のトラブルへの対応が必要にあった場合

なお、例外的に残業時間の上限を超えて働かせることができる場合であっても、以下のルールを守る必要があります。

・時間外労働は年720時間以内

・時間外労働と休⽇労働の合計は⽉100時間未満

・時間外労働と休⽇労働の合計は、複数月(2~6か月の各月)平均80時間以内

・時間外労働が⽉45時間を超えられるのは年6か⽉まで

3 2024年からすべての企業に対して残業時間の上限規制が適用

残業時間の上限規制は2019年から段階的に適用がスタートし、現在ではすべての企業が適用対象となっています。以下では、残業時間の上限規制が適用されるようになった経過を説明します。

3-1 大企業は2019年4月から上限規制が適用

これまでは残業時間の上限については、厚生労働大臣の告示によって基準が定められていました。しかし、限度基準告示による上限規制では罰則による強制力がなく、特別条項を設けることにより、上限なく残業を行わせることが可能という問題点が指摘されていました。

そこで、法改正により2019年4月1日から罰則付きの残業時間の上限規制が導入され、さらに、臨時的な特別の事情があっても超えられない上限が設けられました。

しかし、すべての企業に対して直ちに残業時間の上限規制を適用するのは影響が大きいと考えられたため、まずは大企業に対してのみ適用されることになりました。

3-2 中小企業は2020年4月から上限規制が適用

以下の条件を満たす中小企業については、残業時間の上限規制の適用が1年間猶予されていました。しかし、2020年4月1日からは大企業と同様に残業時間の上限規制が適用されています。

業種

資本金の額または出資の総額

または

常時使用する労働者数

小売業

5000万円以下

50人以下

サービス業

5000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他(製造業、建設業、運輸業、その他)

3億円以下

300人以下

3-3 2024年4月から適用が猶予されてきた企業にも適用される

以下の業種については、残業時間の上限規制による影響が特に大きいことから、2024年3月31日まで適用が猶予されていました。

・建設事業

・自動車運転の業務

・医師

しかし、これらの業務についても2024年4月1日から残業時間の上限規制が適用されていますので、現在ではすべての企業が適用対象となっています。いわゆる「2024年問題」といわれるのは、この残業時間の上限規制が適用されたことにより生じた問題のことをいいます。

4 企業が残業時間の上限規制に違反した場合に生じるリスク

企業が残業時間の上限規制に違反した場合には、以下のようなリスクが生じます。

4-1 労働基準法違反による罰則

36協定を締結・届出することなく残業をさせた、残業時間の上限規制を超えて残業をさせたなど残業時間に関する違反があった場合には、労働基準法違反となります。

労働基準法に違反した使用者に対しては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

4-2 労働者からの未払い残業代請求

残業時間の上限規制を超えて残業をさせているケースでは、適切な残業代が支払われておらず、残業代が未払いになっていることが多いです。このような場合、労働者から未払い残業代の請求をされるリスクがあります。

労働者との話し合いで解決できればよいですが、裁判にまで発展すると、裁判所から未払い残業代と同額の付加金の支払いを命じられることもありますので、金額によっては企業の経営を圧迫する可能性もあります。

4-3 過労死や健康障害を理由とする賠償責任

残業時間の上限規制は、労働者の長時間労働を是正し、ワーク・ライフ・バランスを改善することを目的で設けられています。このような上限規制に違反した長時間残業が行われると、労働者の肉体的・精神的ストレスが徐々に蓄積し、過労死や健康障害が生じるリスクが高くなります。

従業員に健康障害が生じると生産性の低下や離職率の増加といった悪影響が生じるだけでなく、過労死や健康障害を理由とする損害賠償請求を受けるリスクがあります。長時間残業により過労死をしたという事実が報道されてしまうと、「ブラック企業」とのレッテルを貼られてしまいますので、企業の社会的信用性は大きく失墜してしまうでしょう。

5 残業時間の上限規制に関して企業が行うべき対策

残業時間の上限規制に違反すると上記のようにさまざまなリスクが生じます。そのため、企業としては、残業時間の上限規制に違反しないよう適切な対策を講じることが求められます。以下では、残業時間の上限規制に関して企業が行うべき対策を説明します。

5-1 残業時間の現状を把握

残業時間の上限規制に関する適切な対策を講じるためには、まずは残業時間の現状を適正に把握することが大切です。

・労働者ごとの残業時間はどのくらいか

・残業が多く発生する部署があるか

・残業が発生しやすい時期があるか

・業務が特定の部署や労働者に偏っていないか

・36協定の締結、届出ができているか

などを確認し、残業時間の現状をしっかりと分析してみましょう。

5-2 労働環境の見直し

残業が常態化している企業では、違法な長時間残業になってしまうリスクがありますので、労働環境の見直しが必要になります。

具体的には、特定の部署や労働者に業務が集中しているのであれば業務負担を分散させなければなりません。また、長時間労働を解消するには経営陣の意識改革も重要となります。上司が率先して定時退社するだけでも部下が帰りやすい環境になりますので、まずはできることから始めてみるようにしましょう。

5-3 労働時間を短縮するための新たな制度の導入

残業時間を削減する対策として、新たな勤務制度を導入することも有効な手段となります。

どのような制度が有効かは、企業によって異なりますが、残業時間の削減に役立つ勤務制度を挙げると以下のようなものがあります。

・変形労働時間制の導入

・フレックスタイム制の導入

・事業場外労働に関するみなし労働時間制の導入

・ノー残業デーの設置

5-4 弁護士への相談

残業時間の上限規制の遵守に向けた取り組みをするにあたって、専門家である弁護士からアドバイスしてもらうのも有効です。

弁護士であれば企業の現状の問題点を正確に把握し、それに向けたさまざまな改善策を提案することができます。弁護士のアドバイスに従って対策を講じることで、長時間残業により生じるさまざまなリスクの顕在化を最小限に抑えることが可能です。

また、継続的に弁護士から法的サポートを受けることで、法的リスクの顕在化はさらに低くなりますので、単発の相談で終わるのではなく、顧問弁護士という形で弁護士を利用するのもおすすめです。

6 まとめ

働き方改革関連法により、現在ではすべての企業に残業時間の上限規制が適用されます。従来と同じ働き方だと残業時間の上限規制に抵触するおそれもありますので、自社の状況を踏まえて適切に対応していくことが大切です。

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