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事業承継の方法や流れを弁護士が解説

投稿日 : 2024年10月05日

多くの中小企業では、経営者の高齢化が進んでおり、事業承継が重要な経営課題となっています。面倒だからという理由で事業承継を先送りにしていると、後継者の育成や発掘が間に合わず、最悪のケースでは事業を廃止しなければならないこともあります。

このようなリスクを回避するためにも早めに事業承継対策を進めていくことが大切です。

本コラムでは、後継者問題で悩む経営者に向けて、事業承継対策の方法とその流れを解説します。

1 事業承継の対策が必要とされる3つの理由

企業において事業承継の対策が必要とされるのは、主に以下の3つの理由があるからです。

1-1 相続トラブルの防止

経営者が死亡し、相続が発生すると、経営者が保有する会社株式も相続財産として相続人に相続されることになります。相続人による話し合いにより会社株式の相続がスムーズに進めばよいですが、相続争いが生じてしまうと企業の意思決定にも支障が生じ、経営に混乱を招くおそれがあります。

また、会社株式が相続により分散してしまうと、経営権の集中ができず今後の経営に支障が生じるおそれもあります。

経営者が不慮の事故でなくなる可能性も否定できませんので、相続トラブルによる経営の混乱を避けるためにも早めに事業承継対策を進めることが必要です。

1-2 事業の存続

事業承継は、単に経営者が交代すれば完了するわけではありません。企業の経営にあたっては、企業の資産や経営のノウハウなどこれまで経営者が培ってきたものを後継者に引き継ぐ必要があります。

後継者を育成するにあたっては、数年単位の期間がかかりますので、長期的な視点で事業承継対策を進めていかなければなりません。十分な準備ができていない状態で経営者が亡くなってしまうと、後継者が見つからず、黒字経営であっても事業を廃止しなければならない事態に追い込まれることもあります。

そのため、自社の事業をしっかりと存続していくためにも事業承継対策が必要になります。

1-3 税金対策

事業承継にあたっては、高額な相続税や贈与税が課税されるため、税負担が大きなネックとなり後継者が見つからないこともあります。

しかし、事業承継税制を活用することにより、事業承継により生じる税負担を軽減しながら事業承継を実現することが可能です。ただし、事業承継税制を利用するためには、一定の手続きが必要になりますので、十分に対策をしておかなければ事業承継税制の適用を受けることができません。

後継者への税負担を抑える方法には、事業承継税制以外にもさまざまな方法がありますので、適切な対策を講じるためにも早期に事業承継対策に取り組むことが必要です。

2 事業承継の主な方法

事業承継にあたっては適切な後継者を発掘・育成しなければなりません。誰に事業を承継させるかによって、今後の企業経営が大きく変わってきますので、適切な手段を選択する必要があります。以下では、後継者選びの主な3つの選択肢を説明します。

2-1親族内承継

親族内承継とは、経営者が自身の親族(子ども、孫、甥・姪など)に会社経営を引き継ぐ方法です。中小企業の経営者の多くは、自身の親族への承継を望むケースがもっとも多いと考えられています。このような親族内承継には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

【メリット】

・一般的に社内外の関係者から心情的に受け入れられやすい

・後継者を早期に決定することができ、準備期間を比較的長く確保できる

・他の方法と比較して、「所有と経営」を一体的に承継できる可能性が高い

【デメリット】

・親族内に能力や意欲がある人がいるとは限らない

・後継者候補となる子どもが複数存在する場合、後継者の決定に困る

・後継者以外の相続人への財産分与などの問題が生じる可能性がある

2-2親族外(従業員)承継

親族外承継とは、経営者の親族以外から会社経営を引き継ぐ後継者を探す方法です。親族外承継では、会社の役員や従業員の中から候補者を選定するのが一般的ですが、社内に適切な候補者が見当たらない場合は、取引先や金融機関から候補者の招へいを検討する必要があります。

このような親族外承継には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

【メリット】

・親族内に適任者がいなかった場合でも、経営理念の理解者である候補者を確保できる可能性が高い

・事業内容や業務に精通しているため経営方針などの一貫性を維持しやすく、事業の停滞を回避できる

・実力が伴った候補者であれば他の従業員からの理解を得やすい

【デメリット】

・親族内承継に比べると、社内外の関係者からの理解を得るのが難しい可能性がある

・後継者候補が株式取得などに必要な資金力がない場合が多く、経営権の移行に時間がかかる可能性がある

・現経営者が負う連帯保証債務の引継などの問題がある

2-3第三者承継

第三者承継とは、経営者の親族や会社の役員・従業員以外の第三者に会社経営を引き継ぐ方法です。親族内外に適切な候補者がいない場合に、事業を継続するためには、第三者に会社を売却する、いわゆる「M&A」を選択することになります。

このような第三者承継には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

【メリット】

・3つの方法のうち最も広い範囲で優秀な後継者を選定することができる

・現経営者が自社株式を第三者へ売却する場合、株式の売却代金を得ることができる

・他企業との融合により、企業としての価値が高まる可能性がある

【デメリット】

・希望の条件を満たす買い手が見つかるとは限らない

・売却先と条件面でお互いに納得するのに時間を要することがある

・M&Aの仲介業者を利用する場合、報酬の支払いが必要になる

3 事業承継対策の流れ

事業承継対策を実施するには、正しい事業承継の進め方を理解することが大切です。以下では、事業承継対策の基本的な流れを説明します。

3-1 現状の把握

事業承継を考えるにあたって、まずは現在の会社の状況を把握しなければなりません。後継者候補の有無、事業内容、財務内容によって今後の事業承継対策の進め方が大きく変わってきますので、客観的な資料に基づいて正確に把握することが大切です。

具体的には、以下のような事項について確認・検討が必要になります。

・関係者、株主構成の確認

・従業員の人数、年齢の確認

・貸借対照表、損益計算書の分析

・キャッシュフロー計算書の作成

・借入金の返済状況、連帯保証、抵当権の確認

・経営者の個人名義資産、負債の調査

・後継者候補の有無

3-2 後継者の選定

会社の現状の把握ができたら、次は後継者の選定を行います。後継者は、既に説明したとおり、以下のような方法で選定します。

・親族内承継

・親族外承継

・第三者承継

後継者の選定は、事業の円滑な承継のために極めて重要な事項です。後継者の選定を誤ると事業承継そのものが早々に頓挫したり、事業の継続が困難な状況に陥ることもあります。そのため、事業承継を成功させるためには、後継者候補のリストアップを行った後、実際に候補者を確定させる際には、候補者の適性をしっかりと見極めながら、十分な時間をかけて慎重に行うことが重要です。

なお、後々のトラブルを避けるためには、事前に親族間の理解を得ておくこと、現経営者が現役のうちに後継者を決定しておくことが非常に重要になります。

3-3 資産承継方法の決定

後継者の選定ができたら、次は、会社の資産をどのような方法で後継者に承継させるかを検討します。主な資産承継の方法としては、以下のものが挙げられます。

・売買

・生前贈与

・相続

・株式譲渡

・吸収合併

実施する事業承継の方法に応じて、資産承継の方法も変わってきますので、専門家と相談しながら適切な資産承継の方法を選択するようにしましょう。

3-4 事業承継計画の作成と実行

事業承継方法が決まり、関係者の意思確認を終えたら、事業承継計画書の作成を行います。

事業承継対策は、中長期的な視点で行う必要がありますので、事業承継計画書では、事業の方向性や将来の数値目標などをしっかりと定めることが大切です。事業承継税制の適用を受けるためにも事業承継計画書の作成が必要になりますので、事業承継に詳しい専門家のサポートを受けながら計画書の作成をすすめていくとよいでしょう。

4 事業承継対策の主な相談先

事業承継を成功させるためには、事業承継に詳しい専門家のサポートが不可欠です。事業承継対策を相談できる主な専門家や相談機関としては、以下のものが挙げられます。

4-1 顧問弁護士

事業承継にあたっては、法的観点からの検討が不可欠となりますので、法律の専門家である弁護士のサポートが必要になります。弁護士に相談することで、主に以下のようなサポートを受けることができます。

・事業承継の方法についてのアドバイス

・事業承継を実施する際の法的サポート

・金融機関との交渉

・取引先との契約書の整備

・後継者が会社経営を引き継いだ後の法的サポート

・労務管理体制の整備

企業に顧問弁護士がいる場合には、企業の実情をよく把握していますので、顧問弁護士に事業承継を相談すれば、企業の現状を踏まえた最適なアドバイスを受けることができます。

4-2 金融機関

取引のある金融機関では、企業の経営状態や財務状況をよく把握していますので、それを踏まえたアドバイスを受けることができます。金融機関では他の取引先を多く抱えていますので、自社では後継者候補が見つからない場合には、適切な事業承継先を見つけてくれる可能性もあります。

また、自社に顧問弁護士などがいない場合には事業承継に詳しい弁護士や税理士などの紹介を受けることもできるでしょう。

4-3 事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターとは、国が設置する事業承継に関する公的な相談窓口です。各都道府県に相談窓口が設置されており、無料で相談できるのが特徴です。

事業承継・引継ぎ支援センターでは、後継者人材バンクを活用して後継者不在の企業の事業承継をサポートしてもらうことができます。

4-4 M&A仲介会社

第三者承継を検討している場合には、M&A仲介会社も事業承継の相談先の一つになります。

M&Aを実施するには、専門的知識と実績が必要になりますので、M&Aを専門的に取り扱う仲介会社に相談することでスムーズに手続きを進めることが期待できます。

ただし、M&A仲介会社に依頼をすると高額な報酬が発生することもありますので、その点には注意が必要です。

5 まとめ

経営者の高齢化が進む中小企業では、後継者不足により廃業に追い込まれるケースも少なくありません。このような事態を防ぐためには、早い段階から事業承継に関する対策を進めていくことが重要です。

適切な事業承継を実施するためには、専門家によるサポートが不可欠となりますので、早めに顧問弁護士に相談をするか、顧問弁護士がいない企業では顧問弁護士を利用するなどして継続的にサポートしてもらう必要があります。

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