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債権回収

債権回収の方法-相殺

投稿日 : 2017年11月26日

債権の有力な回収手段である相殺(そうさい)について解説していきます。

相殺とは?

相殺は日常用語でも使いますが、法律用語でもあります。相殺が行われるのは以下のようなケースです。

相殺の例その1

上の図で、A会社はB会社に対して100万円の請求権を有している(右方向の矢印)、つまり100万円支払えと請求できます。同様に、B会社もA会社に対して50万円の請求権を有しています(左方向の矢印)。この場合、A会社又はB会社のいずれも、相手方に対して「相殺します」との意思表示をすれば、対抗し合う金額の範囲で請求権が消滅します。具体的には、上の図のケースでは50万円の範囲でお互いの請求権が消滅し、A会社のB会社に対する50万円の請求権だけが残ります。要するに50万円分はお互いに帳消しにする、ということです。

ただし、相殺ができるのは自分が持っている債権の支払期限が到来しているときに限ります。例えば、A会社のB会社に対する100万円の請求権(右方向の矢印)の支払期限が到来していない場合、例えば1か月後である場合、A会社は相殺ができません。実際上、支払期限が問題になるのは自分が持っている債権だけです。相手の自分に対する債権の支払期限は、自分が相殺できるか否かには影響しません。(より正確に言うと、相殺をするためには、本来、両方の債権の支払期限が到来していることが必要ですが、相手が持っている債権の期限は自分(義務を負っている側)の意志で放棄し、支払期限が到来したとすることができるのです。そのため、実際上支払期限が問題になるのは、自分が持っている債権だけです。)

相殺について、民法では以下のとおり規定されています。

「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。」(民法505条1項)

上の説明とは異なり、債務(義務)という用語で規定していますが、債権と債務は裏返しの関係にあるので同じことを言っています。

相殺が使われる場面

実際にビジネスで相殺が使われるのは以下のようなケースです。

相殺の例その2
上の例では、A銀行が取引先であるB会社に対して融資をした結果、100万円の貸金債権を有しています。それに対し、A銀行に預金をしているB会社は50万円の預金債権を有しています。そうした中、B会社の信用状態が悪化し、A銀行の貸金債権の回収ができなくなった場合、A銀行は50万円を相殺することによって実質的に回収をすることができるのです。言ってみれば、相殺ができる状態にしておくことは債権回収のための担保を有しているのと同じ効果があります。そのため、これを相殺の担保的機能と呼んだりします。

次の例を見てみましょう。

相殺の例その3

上の例では、A会社はB会社に商品を売った結果、100万円の売掛債権を有しています。それに対し、B会社はA会社との取引開始時に50万円の取引保証金を差し入れており、その返還請求権を有しています。そうした中、B会社の信用状態が悪化し、A会社の売掛債権の回収ができなくなった場合、A会社は50万円を相殺することによって実質的に回収をすることができます。これは、A会社が売掛債権の将来の回収のためにあらかじめB会社から取引保証金を差し入れさせたことで可能となったものです。

実際に相殺をする手続きは?

相殺をするための手続きとしては、相手方に相殺をする旨の通知をする必要があります。合意による方法(相殺契約を締結する)も可能ですが、債権回収の場面では債権者からの一方的な通知で行う場面が殆どといえます。通知の内容としては、相殺に供するお互いの債権を特定し、それらを相殺することが明示されていなければなりません。実務上は記録に残すために内容証明郵便で送付するのが一般的です。

相殺ができない場合にどうするか?

相殺の例その4

うまく相殺ができる状態になっていれば良いのですが、通常の取引の場面では自社が取引先に対して売掛債権を有しているだけで、相殺に供するための反対債権がない場合が多いといえます(上の図にあるとおりです)。債権回収の場面を意識して事前に相殺に供するための反対債権を作り出していない限り、相殺できないことが多いといえます。

そのような場合であっても以下の方法が検討できます。

相殺の例その5
上記の図で、自社は取引先Aに100万円の売掛債権を有し、取引先Aは転売先に対して150万円の売掛債権を有しています。一見すると相殺はできないように見えますが、相殺ができる状況を作り出すことが可能です。

1つの方法は、自社が有している100万円の売掛債権を、転売先に譲渡することです(債権譲渡)。債権は他人に譲り渡すことができ、その結果、本件では自社に代わって転売先が取引先Aに対して100万円を請求できることになります。すると、転売先は取引先Aとの関係で互いに債権を持ち合う関係になるので相殺をすることができます。自社は転売先に債権譲渡をする際、債権譲渡の対価を受け取ります。それによって実質的に売掛債権を回収することができます。

もう1つの方法は、転売先が取引先Aに対して負っている債務(150万円の支払債務)を自社が引き受ける方法です(債務引受)。他人の債務であってもそれを自己の債務として引き受け、元の債務者に代わって弁済することができます。その結果、本件では自社が転売先の売掛債務(取引先Aから見た150万円の売掛債権)を負うことになります。すると、自社は取引先Aとの関係で互いに債権を持ち合う関係になるので相殺をすることができます。自社は相殺によって転売先の債務を弁済したことになるので、転売先に対して求償権を行使できます。それによって実質的に売掛債権を回収することができます。

上記のいずれの方法を行う場合であっても、転売先の協力が必要となります。そのため、例えば自社と転売先がグループ会社であったり、転売先が融通の利く相手でなければこれらの方法をとることは難しいといえます。さらに、これらの方法で首尾よく相殺ができた場合であっても、取引先が破産等した場合には管財人から相殺の効果を否定されることがあるので注意が必要です(下記5参照)。

相殺が禁止される場合

相殺が禁止される場合として挙げられるのが以下のケースです。

(1) 相殺に供する債権について相殺禁止の特約をしている場合
(2) 自社の負っている債務(相手方の有する債権)が不法行為に基づくものである場合
(3) 差押禁止債権にあたる場合(例えば、自社が社員に対して有する債権と、社員が有する給与債権を、自社が相殺することはできません)
(4) 自社が取引先に債務を負っている債務が差押えを受けた後、自社が取得した取引先に対する債権をもって相殺すること
(5) 各倒産法による相殺禁止にあたる場合

上記のうち、特に注意が必要なのが(5)の相殺禁止です。これは、具体的に言うと、取引先に信用不安が生じた後に債権を取得し、又は債務を負担した場合、一定の要件の下で相殺が禁止される、というものです。一定の要件とは以下のとおりです。

反対債権(反対債務)を取得した時期

自社が何を知っていたか

  • 取引先が支払不能になった後
  • 取引先が支払不能になったこと
  • 取引先が支払停止を表明した後
  • 取引先が支払停止を表明した
  • 倒産手続きの申立てがあった後
  • 倒産手続きの申立てがあったこと
  • 倒産手続きの開始決定があった後
  • (全て相殺禁止)

上記のうち、一番早いタイミングは支払不能です。支払不能とは、一般的かつ継続的に債務を弁済できない状態になることを意味します。これは一時的な資金不足ではなく、現在及び将来において代金等の支払いをすることが見込めない状態に陥った、ということです。

取引先がそのような状態に陥ったことを知りながら、相殺をするための債権を取得し、又は債務を負担した場合、倒産手続きにおいては相殺を禁じられるので注意が必要です。この相殺禁止に該当する場合には、仮に自社が取引先との関係でお互いの債権を相殺しても、取引先が倒産したとき、倒産手続きの中で管財人等からその効力を否定されます。結果として債権回収ができないことになってしまいます。

上記の4で説明したスキームにおいては、まさにこの相殺禁止にあたるリスクが高いといえます。そのため、4で説明したスキームの検討においては、取引先の信用状態や倒産手続きの開始の見通しを十分考慮しなければならないといえます。
        


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