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会社法

取締役の責任を免除する手続き

投稿日 : 2018年06月09日

取締役の会社に対する責任の免除について解説します。なお、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は本稿の対象ではありません。

取締役の任務懈怠責任

取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っています。そして、この義務に違反して会社に損害を与えた場合、取締役は会社に対して損害賠償責任を負います。(この点について詳しくは、取締役の会社に対する責任をご覧ください。)

責任を免除する方法

取締役の任務懈怠による損害賠償責任を免除するのには以下の方法があります。

1 総株主の同意(責任の全部免除)
2 株主総会の特別決議(責任の一部免除)
3 定款の定めに基づく取締役会の決定(責任の一部免除)
4 責任限定契約(責任の一部免除)

以下ではそれぞれについて解説します。

総株主の同意(責任の全部免除)

取締役が会社に対して損害賠償責任を負う場合であっても、総株主の同意があれば責任を免除することができます。この総株主の同意は株主総会決議である必要はなく、全ての株主から個別に同意を得ることでも良いと解されています。

判例は、免責が認められるためには手続きとして総株主による同意に加え、会社による免除の意思表示が必要としています。

株主総会の特別決議(責任の一部免除)

取締役の会社に対する責任は株主総会の特別決議によって一部免除することができます。要件・手続き等は以下のとおりです。

(1)善意・無重過失であること

責任の一部免除が認められるのは取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に限られます。悪意または重大な過失がある場合には免除は認められません。

(2)監査役の同意を得ること

監査役設置会社においては、取締役の責任免除の議案を株主総会に提出するには、監査役の同意を得なければならないとされています。

(3)株主総会の特別決議を経ること

責任の一部免除をするためには株主総会において特別決議を経る必要があります。取締役は株主総会において次の事項を開示しなければならないとされています:①責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額、②免除することができる額の限度及びその算定の根拠、③責任を免除すべき理由及び免除額。

(4)免除が認められない金額(最低責任限度額)

会社法では株主総会の決議によっても免除をすることができない金額が定められており、当該金額を最低責任限度額といいます。最低責任限度額は、①1年当たりの報酬等の額に基づいて算定される金額と、②新株予約権を特に有利な条件で引き受けた場合の財産上の利益に相当する額、の合計額です。株主総会の決議によって免除をすることができるのは、取締役が負担する損害賠償義務の金額から最低責任限度額を差し引いた金額が上限となります。

上記の①の金額は取締役の区分に応じ以下のとおりです。

区分

最低責任限度額

代表取締役 (1年当たりの報酬等の額)×6
業務執行取締役等 (1年当たりの報酬等の額)×4
上記以外の取締役 (1年当たりの報酬等の額)×2

(計算の例)

  • 代表取締役について会社に対する損害賠償額が2億円
  • 当該代表取締役の1年当たりの報酬等の額は2000万円、新株予約権は保有せず

→ 最低責任限度額は1億2000万円、免除が認められるのは最大で8000万円(=2億円-8000万円)

定款の定めに基づく取締役会の決定(責任の一部免除)

取締役の会社に対する責任は、定款の定めに基づき、取締役会の決議(取締役会がない場合には過半数の取締役の同意。以下同様。)によって一部免除することができます。要件・手続き等は以下のとおりです。

(1)善意・無重過失であること

責任の一部免除が認められるのは取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に限られます。悪意または重大な過失がある場合には免除は認められません。

(2)取締役2名以上かつ監査役設置会社であること

取締役会設置会社であれば取締役は3名以上であり、かつ監査役も必置なので自動的にこの要件を満たします。取締役会を設置していない会社の場合、取締役が2名以上でかつ監査役を設置していなければなりません。

(3)定款の定めがあること

取締役会の決議によって取締役の責任の免除をすることができる旨の定款の定めが必要です。この定款の定めは登記事項とされています。

(4)監査役の同意を得ること

監査役設置会社においては、上記(3)に関する定款の定めを設ける議案を株主総会に提出する場合、及び、定款の定めに基づく責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合のそれぞれについて、監査役の同意を得なければならないとされています。

(5)取締役会の決議を経ること

取締役会において責任の一部免除を決議します。取締役会が責任の一部免除を決議することができるのは、責任の原因となった事実の内容、当該取締役の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときに限られます。

(6)免除が認められない金額(最低責任限度額)

最低責任限度額については株主総会の決議に基づく責任免除の場合と同様です。

(7)株主に対する事後の通知

取締役会の決議によって取締役の責任を免除する旨の決議を行ったときは、取締役は遅滞なく株主に通知しなければならないとされています(公開会社の場合は公告と株主に対する通知が必要)。株主に通知すべき事項は、責任免除に関する事項、及び、責任を免除することに異議がある場合には一定の期間内(1か月以上)に異議を述べるべき旨です。

この株主への通知がなされた場合において、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主が異議を述べたときには、責任の免除は認められなくなります。

責任限定契約(責任の一部免除)

取締役の会社に対する責任は、定款の定めに基づき、取締役と会社との間の契約によって予め一部免除することができます。この契約を締結することができるのは業務執行取締役等以外の取締役に限られており、主に社外取締役が対象となります。要件・手続き等は以下のとおりです。

(1)業務執行取締役等以外の取締役であること

「業務執行取締役等」とは、①代表取締役、②取締役会の決議によって業務執行取締役として選定された者、③会社の業務を執行した取締役、④執行役、⑤支配人、⑥その他の使用人、です。責任限定契約を締結できるのは、この「業務執行取締役等」以外の取締役です。要するに会社の業務執行に関与しない取締役ということになります。

責任限定契約を締結した取締役が会社の業務執行取締役等に就任した場合、当該契約は将来に向かって効力を失います。注意しなければならないのは、業務執行取締役等のうち、③会社の業務を執行した取締役です。特に選任手続きを経なくとも、業務を執行したという事実をもって業務執行取締役等に就任したと解されるおそれがあります。

(2)善意・無重過失であること

責任の一部免除が認められるのは取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に限られます。悪意または重大な過失がある場合には免除は認められません。

(3)定款の定めがあること

取締役の責任の限度額に関する契約を締結することができる旨の定款の定めが必要です。この定款の定めは登記事項とされています。

(4)監査役の同意を得ること

監査役設置会社においては、上記(3)に関する定款の定めを設ける議案を株主総会に提出する場合、及び、定款の定めに基づく責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合のそれぞれについて、監査役の同意を得なければならないとされています。

(5)責任の限度額

責任限定契約による責任の限度額は、以下のいずれか高い方となります:①定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額、又は、②最低責任限度額(株主総会の決議に基づく責任免除の場合を参照)。

(6)株主に対する事後の通知

責任限定契約を締結した会社が、当該契約の相手方である取締役が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会において、責任の原因となった事実や責任限定に関する事項等を開示しなければならないとされています。もっとも、取締役会の決定に基づく責任免除とは異なり、株主は個々の事案における取締役の責任の限定について異議を述べることはできません。責任限定契約によって既に限度額の定めが会社と取締役との間の契約内容となっているからです。

利益相反取引の場合の適用除外

利益相反取引のうち、自己のためにした取引を行った取締役の任務懈怠責任については、本稿で解説した、株主総会の特別決議に基づく責任の一部免除、取締役会の決議に基づく責任の一部免除、責任限定契約による責任の限度額のいずれも適用がありません。これは、自己取引による利益相反行為の責任を厳格化するために設けられている特則です。
        


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