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会社法

取締役の会社に対する責任(任務懈怠責任・会社法423条)

投稿日 : 2018年06月08日

取締役の会社に対する責任(任務懈怠責任・会社法423条)について解説します。

取締役の会社に対する責任

取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っています。これは、ある業務を委任された者がその分野の職業人・専門家として一般に期待される注意義務を意味します。取締役の場合、一般に取締役としての地位にある者に要求される水準の注意義務を果たす必要があることになります。

取締役が会社に対して上記の注意義務を負っていることを前提に、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があるのは以下の場合です。

  1. 取締役の任務を怠った場合(任務懈怠責任)
  2. 競業取引をした場合
  3. 利益相反取引をした場合
  4. 株主に対して利益供与をした場合
  5. 分配可能額を超えて剰余金を配当した場合
  6. 出資の履行が適法になされなかった場合

以下、それぞれについて説明します。

取締役の任務を怠った場合の責任(任務懈怠責任)

取締役は、その取締役としての任務を怠った場合、会社に対して損害賠償責任を負います。これは任務懈怠責任と呼ばれるものです。根拠となる条文は以下のとおりです。

会社法第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

賠償額は取締役の行為又は不作為によって会社が被った損害の金額です。任務懈怠責任が問題となる場面は以下のとおりです。

(1)法令等に違反する行為をすること

取締役がその職務を遂行するにあたり、法令等に違反するような行為をすることは当然のことながら善管注意義務に違反するものです。また、取締役は会社の重要な意思決定に関与しますが、会社をして法令等に違反させないようにすることも取締役の義務です。そのため、取締役の判断として会社に法令違反行為をさせるようなことがあれば善管注意義務に反すると評価されます。

(2)監視・監督義務を怠ること(会社の違法行為を見逃すこと)

取締役はその職務の一環として他の取締役や従業員を監視・監督する義務を負っています。この監視・監督義務とは、他の取締役等が適正に職務を行っているかを監督することです。特に、業務執行権限を有する代表取締役や業務執行取締役による業務執行を監督することが重要となります。例えば、ある取締役が違法な行為を行おうとしていることについて、別の取締役がその動きに気付いた場合、当該取締役(気付いた者)はその行為をやめさせるのに必要な措置をとることが求められます。

また、取締役が監視・監督義務を負う対象は自らの所掌事務や取締役会に上程された事項に限られるものではありません。会社全体の業務について監視・監督義務を負うと解されています。担当外というだけで責任を免れるわけではないので注意が必要です。

もっとも、名目的な取締役で他の取締役(特に代表取締役)の行為を止めることが現実に難しい場合には責任が否定されることもあります。また、違法行為が秘密裏に行われ、発見が困難であった場合にも義務違反はないと判断される場合もあると思われます。

(3)経営判断の失敗により会社に損害を与えること

取締役は会社の事業について意思決定をしますが、その決定が結果として誤りで会社に損害を与えることもあります。そのような場合に常に善管注意義務違反であるとして責任を負わせるのは取締役に酷であるといえます。また、結果責任を負わされるとなると、取締役がリスクをとって積極的な経営判断をすることを躊躇してしまいます。そこで、取締役が経営判断を場合の責任の有無については経営判断の原則という考え方に基づいて判断されます。

経営判断の原則の下では、判断当時の具体的な状況に照らして、①判断の前提となった事実についてしかるべき調査、情報収集が行われたか、②その意思決定が経営者として不合理な判断ではないか、という観点から義務違反が審査されます。そのため、経営判断の失敗があったとしても、取締役が直ちに義務違反であるとして責任を負うのではなく、その判断過程において十分な注意を尽くしていたかが問題となります。

経営判断原則に関する判例の立場について、詳しくは取締役の善管注意義務をご覧ください。

競業取引をした場合の責任

競業取引とは、取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引を行うことをいいます。例えば、日用品卸売業を営む会社の取締役が、同じく自らの名義で日用品の卸売を行うような場合です。

取締役は会社の営業上の秘密や顧客情報等を知るべき立場にあることから、取締役が会社の事業と同種の取引を行う場合には会社の情報を利用するおそれが大きいといえます。会社の情報は本来その会社のためのものであり、取締役がそれを自己又は第三者のために利用することは許されるべきではありません。そこで、取締役による競業取引は会社法によって規制され、競業取引を行う場合には会社による承認を受けなければならないとされています。

この会社による承認を受けないで行った競業取引は会社法に違反するものであり、取引を行った取締役は会社に対して損害賠償責任を負います。しかし、取締役の競業取引によって会社が被った損害額を算定するのは非常に困難です。そこで、会社法では、取締役が競業取引から得た利益の額を会社による損害額と推定する、と規定しています。これにより、会社は取締役が得た利益をそのまま損害額として請求することができます。

(競業取引についてより詳しくは、取締役の競業取引の規制(競業避止義務)をご覧ください。)

利益相反取引をした場合の責任

利益相反取引とは、取締役が自己又は第三者のために会社(自らが取締役を務める会社)と取引をすることをいいます。例えば、会社が保有する不動産を売却しようとするときに、取締役がその不動産の買主となるような場合です。

取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っており、会社の利益を図るべき立場にあります。しかし、取締役と会社の利益が相反する取引を行う場合には、その地位を利用して自己又は第三者の利益を図り、会社の利益を犠牲にするおそれがあります。そこで、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合には、会社による承認を受けなければならないとされています。

このような会社による承認を受けないで行った利益相反取引は会社法に違反するものであり、当該取引を行った取締役(会社との取引の相手方となった取締役及び取引において会社を代表した取締役)は原則として会社に対して損害賠償責任を負います。

また、仮に会社による承認があっても、会社法の規定により、以下の取締役は任務を怠ったものと推定されます。

  • 自己又は第三者のために会社と取引を行った取締役
  • 会社と取締役の利益が相反する取引における当該取締役
  • 会社が利益相反取引をすることを決定した取締役
  • 利益相反取引に関する取締役の承認決議に賛成した取締役

上記の推定規定があるため、会社による承認があっても取締役はなお任務懈怠があったとして責任を負う可能性があります。

(利益相反取引についてより詳しくは、取締役の利益相反取引の規制をご覧ください。)

株主に対して利益供与をした場合の責任

会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないとされています。これはいわゆる総会屋を排除するために設けられた規制ですが、会社法上はその適用対象に限定はありません。株主に対する利益供与はもちろん、株主以外の者であっても株主の権利の行使に関して利益供与がなされる限り、違法となります。

上記の規制に反して財産上の利益の供与がされた場合には、当該利益の供与を受けた株主その他の者は当該利益を会社に返還する義務を負います。また、会社が当該利益の供与をすることに関与した取締役は、原則として会社に対して利益相当額の支払義務を負います。

分配可能額を超えて剰余金を配当した場合

会社が株主に対して剰余金を配当する場合、会社法で定める分配可能額を超えてはならないとされています。この規制に違反して剰余金の配当がなされた場合、株主は会社に対して交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います。しかし、実際に株主から返還させるのは困難を伴うことから、剰余金の配当に関与した取締役に責任を負わせています。具体的には、以下の取締役は株主同様、会社に対して配当に係る金銭の支払義務を負います。

  • 剰余金の配当に関する職務を行った業務執行者(業務を執行した取締役を含みます)
  • 配当の金銭の交付に係る職務を行った取締役
  • 株主総会に配当の議案を提案した取締役、及び株主総会において議案を説明した取締役(配当が株主総会決議に基づく場合)
  • 取締役会に配当の議案を提案した取締役、及び議案に賛成した取締役(配当が取締役会決議に基づく場合)

上記のほか、会社が剰余金の配当を行った場合において、当該配当のなされた事業年度末において欠損が生じたときには、業務執行者は当該欠損を補てんする義務を負います。例えば、期中に中間配当を行った場合において、期末に欠損が生じた場合などです。(この欠損てん補の責任は定時株主総会において決議された剰余金の配当については適用がありません。)

出資の履行が適法になされなかった場合

会社が新株等を発行するに際して現物出資がなされる場合、新株等の募集事項の中で当該現物出資の価額が定められます。この現物出資財産の価額が募集事項で定めた価額に著しく不足する場合、その職務を行った取締役等は会社に対して不足額を支払う義務を負います。責任を負うのは以下の取締役です。

  • 株式の引受人の募集に関する職務を行った業務執行取締役
  • 株主総会に議案を提案した取締役(現物出資が株主総会決議に基づく場合)
  • 取締役会に議案を提案した取締役(現物出資が取締役会決議に基づく場合)

責任の免除

本稿で述べた事由に基づいて取締役が会社に対して損害賠償責任等を負う場合であっても、一定の要件を満たせば取締役の責任の全部又は一部が免除されます。責任の免除についてはこちらの記事(取締役の責任の免除)をご覧ください。

株主代表訴訟

取締役が会社に対して損害賠償義務を負う場合には、仮に会社が取締役に責任追及をしなくとも、一定の要件の下で株主が訴訟を提起することもできます(いわゆる株主代表訴訟)。
        


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