会社法
取締役の利益相反取引の規制
投稿日 : 2018年04月21日取締役の利益相反取引の規制に関する会社法上の規定や判例について解説します。なお、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は本稿の対象ではありません。
利益相反取引とは
利益相反取引とは、取締役が自己又は第三者のために会社(自らが取締役を務める会社)と取引をすることをいいます。例えば、会社が保有する不動産を売却しようとするときに、取締役がその不動産の買主となるような場合です。
取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っており、会社の利益を図るべき立場にあります。しかし、取締役と会社の利益が相反する取引を行う場合には、その地位を利用して自己又は第三者の利益を図り、会社の利益を犠牲にするおそれがあります。そこで、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合には、会社による承認を受けなければならないとされています。
会社法の規定
利益相反取引に関する会社法の規定は以下のとおりです。
会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 (略)
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
(以下略)会社法第365条(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第356条第1項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
利益相反取引には直接取引と間接取引があり、いずれも規制の対象となっています。直接取引とは、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合です(上記の会社法356条1項2号)。間接取引とは、会社と第三者との間の取引であって、会社と取締役との利益が相反するものです(上記の会社法356条1項3号)。以下、それぞれについて検討します。
利益相反取引 - 直接取引
(1)会社Xと取締役Aとの間の取引
取引の一方の当事者が会社Xでもう一方の当事者が取締役Aである場合、典型的な利益相反取引となります。この場合、会社を代表するのが取締役Aである場合はもちろん、会社を代表するのが他の取締役Bである場合であっても利益相反取引となります。取締役Aと取締役Bとが結託するおそれがあるからです。
(2)取締役が兼任する会社同士の取引
取締役Aが会社Xと会社Yの取締役を兼任している場合において、会社Xと会社Yとが取引を行うときには、誰が会社を代表するかによって利益相反取引となるか否かが分かれます。
会社Xを代表する者 |
会社Yを代表する者 |
|
パターン1 |
取締役A → 会社Xの承認が必要 |
取締役A → 会社Yの承認が必要 |
パターン2 |
取締役A → 会社Xの承認は不要 |
別の取締役(A以外) → 会社Yの承認が必要 |
パターン3 |
別の取締役(A以外) → 会社Xの承認が必要 |
取締役A → 会社Yの承認は不要 |
パターン4 |
別の取締役(A以外) → 会社Xの承認は不要 |
別の取締役(A以外) → 会社Yの承認は不要 |
上記の「会社を代表する者」は問題となる取引において実際に会社を代表したか否かに基づいて判断します。仮に役職として代表取締役に選任されていても、当該取引において実際に会社を代表していなければ「代表した」とは考えません。
【パターン1】では、会社Xから見て、会社Yとの取引は取締役Aが第三者のために会社とする取引となります。そのため、会社Xにおいて当該取引についての承認が必要となります。同様に、会社Yから見ても、会社Xとの取引は取締役Aが第三者のために会社とする取引となります。そのため、会社Yにおいて当該取引についての承認が必要となります。
【パターン2】では、会社Xから見て、会社Yとの取引は取締役Aが第三者のために取引をしているわけではありません。そのため、会社Xにおいて当該取引についての承認は不要です。これとは異なり、会社Yから見ると、会社Xとの取引は取締役Aが第三者のために会社とする取引となります。そのため、会社Yにおいては当該取引についての承認が必要となります。
【パターン3】では、会社Xから見て、会社Yとの取引は取締役Aが第三者のために会社とする取引となります。そのため、会社Xにおいて当該取引についての承認が必要となります。これとは異なり、会社Yから見ると、会社Xとの取引は取締役Aが第三者のために取引をしているわけではありません。そのため、会社Yにおいて当該取引についての承認は不要です。
【パターン4】では、会社Xと会社Yのいずれから見ても、取締役Aが第三者のために取引をしているわけではありません。そのため、いずれの会社においても当該取引についての承認は不要です。
利益相反取引 - 間接取引
取締役が自己又は第三者のために会社と取引をする場合でなくとも、会社と取締役との利益が相反する取引は間接取引として規制されます。間接取引には様々な類型があります。典型的なものは会社法の条文にもあるとおり、会社による取締役の債務の保証です。保証は債権者と保証人との間で行われる法律行為なので、形式的には債務者は当事者ではありません。しかし、保証は債務者の信用を補完する機能を持つことから、実質的に債務者にとって利益となるといえます。そのため、会社が取締役の債務を保証することは会社の負担の下に取締役に利益をもたらすものと評価できます。
【間接取引の例】
- 会社が取締役の債務を引き受けること
- 会社が取締役の債務について会社の預金を担保として提供すること
- 2つの会社の代表取締役を兼務する取締役が一方の会社を代表して他方の会社の債務の保証をすること
会社に不利益がない場合は利益相反にあたらない
形式的には会社と取締役の取引であるとしても、実質的に考えて会社に不利益が生じない場合には利益相反取引にはあたりません。
【利益相反にあたらない例】
- 取締役が会社に対して負担のない贈与をすること
- 取締役が会社に対して無利息・無担保の貸付をすること
- 取締役が会社に対して債務を弁済すること、及び、会社が取締役に対して債務を弁済すること
- 会社が取締役に対して役員報酬を支払うこと
- 取締役が一般顧客として会社の商品・サービスを購入すること
総株主の同意がある場合も利益相反にあたらない
判例では、株主全員の合意によってなされた取締役と会社との間の取引は、会社の利益保護を目的とする利益相反取引の規制の趣旨に照らして会社の承認を要しないとされています。
また、同じく判例では、取締役が会社の全株式を保有している場合においては会社と取締役との間に実質的な利益相反の関係がないとして、取締役と会社との間の取引について会社の承認を要しないとされています。
重要な事実の開示と会社による承認
取締役が利益相反取引を行おうとする場合には、会社に対して当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。
この開示の対象となる重要な事実とは、会社にとって問題となる利益相反取引がどのような内容であるかを具体的に把握でき、それに基づいて承認をするか否かを判断できる程度のものである必要があります。例えば、利益相反取引の対象となる商品やサービスの内容、数量、取引金額、取引相手などを開示することになります。
会社において利益相反取引の承認を行う機関は、取締役会設置会社である場合には取締役会、取締役会を設置していない会社である場合には株主総会です。取締役会における承認に際しては、利益相反取引を行おうとしている取締役はその決議に参加することはできません。当該取締役は決議に関して特別の利害関係を有するとみられるからです。
上記の承認は単発の取引に関してなされる場合のほか、一定の範囲で包括的に承認をすることもできると解されています。
取引後の報告
取締役会設置会社においては、取締役が利益相反取引を行った場合、取引後遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないとされています。
承認を得ない利益相反取引の有効性
会社の承認を得ないままなされた利益相反取引の有効性については、判例は以下のような立場をとっています。すなわち、(1)会社は利益相反取引の相手方である取締役に対しては、会社の承認を得ていなかったことを理由に取引の無効を主張できる、(2)会社以外の第三者と取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、当該第三者が会社の承認を得ない取引であることを知っていることを会社が主張・立証して初めて、会社は当該第三者に対して取引の無効を主張できる、というものです。これは、取引の安全のために善意の第三者の保護を図ったものです。
会社は取引の無効を主張できますが、利益相反取引の規制は会社の利益保護を図ったものなので、取締役は無効を主張することができません。
取引の有効性とは別の問題ですが、取締役が承認を得ない利益相反取引を行った事実は当該取締役の解任事由になりうるといえます。
取締役の損害賠償責任
利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、以下の取締役は任務を怠ったものと推定されます。
- 利益相反取引を行った取締役
- 会社が利益相反取引をすることを決定した取締役
- 利益相反取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役
任務を怠ったものと推定された取締役は推定を覆す主張・立証をしない限り、会社に対して損害賠償責任を負います。さらに、取締役が自己のために利益相反取引を行った場合、任務を怠ったことが自己の責に帰することができない事由によるものであることをもって責任を免れることはできません(無過失責任)。
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