債権回収
担保不動産競売による債権回収
投稿日 : 2018年01月14日担保不動産競売による債権回収について解説します。
担保不動産競売とは
担保不動産競売とは、抵当権又は根抵当権を設定した不動産を競売にかけて売却することにより、その売却代金をもって債権の回収を図る手続きをいいます。不動産担保は特に金融機関を中心に重要な債権回収の手段となっています。
上の図では、自社が取引先に売掛債権等の金銭債権を有しており、その債権を担保するために取引先の不動産に抵当権が設定されているケースを示しています。取引先が自社に対して支払いをしない場合、自社は担保不動産の競売を申し立ててその売却代金から支払いを受けることができます。
不動産の競売には、抵当権等を有しない債権者が申し立てる強制執行と、抵当権等の担保権を有する債権者が申し立てる担保不動産競売の2種類があります。本稿で取り上げるのは後者(抵当権等を有する場合)です。
司法統計によると平成28年度の担保不動産競売の申立件数は18,808件(全地方裁判所)でした。件数としては年々減少傾向にあります。
手続きの流れ
担保不動産競売に要する期間としては半年以上はかかるとお考えください。以下では上記の各手続きについて説明していきます。
競売の申立て
対象となる不動産の所在地を管轄する地方裁判所に対して競売を申し立てます。
(1)必要書類(申立て関係)
以下は裁判所のウェブサイトにある書類の内容を整理してお示しするものです。
書類
備考
担保不動産競売申立書一式
申立書、当事者目録、担保権・被担保権・請求債権目録、物権目録。これらの書式はこちらで入手できます。
不動産登記事項証明書
発効後1ヶ月以内のものに限る。全部事項証明書又は現在事項証明書。
公課証明書
最新の公課及び評価の額が記載されているもの。非課税の不動産については評価証明書を提出。
商業登記事項証明書
当事者の中に法人がある場合。1ヶ月以内に発行されたもの。申立債権者については代表者事項証明書でも可。
住民票
債務者又は所有者が個人の場合。1ヶ月以内に発行されたもの。
委任状
弁護士等の代理人に委任する場合。
特別売却に関する意見書
申立書に意見を記載する場合は不要。
(2)必要書類(現況調査関係)
以下も同様です。
書類
備考
不動産登記事項証明書
上記(1)と同じ。
公課証明書
上記(1)と同じ。
公図写し
法務局の登記官による認証のあるもの。1ヶ月以内に発行されたもの。
建物図面
法務局の登記官による認証のあるもの。1ヶ月以内に発行されたもの。
物件案内図
住宅地図等。物件に目印をしたもの。
債務者又は所有者の商業登記事項証明書
法人の場合。
債務者又は所有者の住民票
個人の場合。
不動産競売の進行に関する照会書、その他事件の進行に有益な資料
対象物件が建物のみの場合には、「対象物件が建物のみの場合の競売事件に関する照会書」も提出。
(3)予納金
予納金は不動産鑑定士の鑑定料や、執行官の現況調査費用等に充当されます。費用は各裁判所によって異なります。東京地裁の場合、請求債権の金額に応じて60万円から200万円です。
(4)申立手数料
担保権の数ごとに4000円です。印紙を貼付する方法で納付します。
(5)郵便切手等
東京地裁の場合、82円切手と10円切手をそれぞれ1枚ずつ。また、債権者宛の住所等が記載された封筒1枚も提出します。
(6)登録免許税
差押えの登記をするための税金です。金額は、確定請求債権額の1000分の4です。例えば、確定請求債権額が1000万円なら登録免許税は4万円となります。
開始決定・差押え
裁判所に対して上記3に従って担保不動産競売の申立てがなされ、その申立てが法定の要件を満たしている場合には、裁判所は競売の開始決定をします。この開始決定においては、債権者のために不動産を差し押さえる旨の宣言がなされます。開始決定がなされると裁判所書記官は法務局に差押えの登記を依頼します。これにより対象不動産について競売がなされたことが公示されます。また、開始決定は債務者に送達されます。差押えによって債務者は対象不動産を売却等することができなくなりますが、使用・収益することは許されます。そのため、競売による売却が完了するまでは債務者は対象不動産を自己のために使用したり、他人に貸し出すことができます。
売却の準備
(1)物件の調査
競売の開始決定がなされると、執行官(裁判所の執行担当職員)が物件の調査を行います。これは、物件の形状、占有関係その他の現況を調査するもので、建物の中に立ち入り、居住者等に質問をしたり文書の提示を求めることができるとされています。仮に債務者が建物を施錠していても鍵を開ける業者を連れてきて強制的に開錠してしまいます。執行官は公務員なので執行官の調査を妨害すると公務執行妨害として刑事罰の対象となります。執行官は調査の結果について現況調査報告書を作成します。
不動産の価値を算定するため、評価人が物件の評価を行います。評価人は不動産鑑定士の中から選任されるのが通例です。評価にあたっては、近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生ずべき収益、不動産の原価その他の不動産の価格形成上の事情を適切に勘案しなければならないとされています。また、評価額は競売の手続きにおいて売却を実施するための価格として算定されます。そのため、一般の不動産市場における取引価格よりも低い価格になります。
上記の現況調査報告書と鑑定人による評価を基に、裁判所書記官は物件明細書を作成します。物件明細書には、物件の表示、競売による売却に伴って成立する法廷地上権の概要、買受人が負担することとなる他人の権利(売却後も有効な賃借権等)、物件の占有状況等に関する特記事項(抵当権に遅れる賃借権等)、その他買受の参考となる事項、が記載されます。
これらの書面は実務上「3点セット」と呼ばれ、物件を購入しようとする者にとって入札の判断をする際に最も重要な資料となります。
上記の3点セットは入札期日の1週間前までに裁判所に備え置かれます。また、こちらの専用のウェブサイト(BITシステム)においても公開され、誰でも閲覧することが可能です。
(2)売却基準価額の決定
裁判所は評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めます。入札をする際には、この売却基準価額の8割以上の価額(買受可能価額)で入札をしなければならず、8割を下回ることはできません。
(3)配当を受ける者の調査
担保不動産の競売が行われた場合に配当を受けることができるのは競売の申立てをした債権者だけではありません。他の債権者も配当に加わることができます。そこで、裁判所は担保不動産の売却代金から配当を受けることができる債権者とその債権額を調査します。配当を受けることができる債権者には、①法律の規定によって当然に配当を受けることができる債権者と、②自ら申し出ることによって配当に参加する債権者がいます。①の債権者は、差押えの登記前に登記された仮差押えの債権者、質権又は抵当権で売却により消滅するものを有する債権者、租税その他の公課を所管する官公庁です。裁判所はこれらの債権者に対して債権額等について届け出るよう催告を行い、債権者は所定の期日(配当要求の終期)までに債権届出を行います。②の債権者は、執行力ある債務名義の正本を有する債権者、差押えの登記後に登記された仮差押債権者、一般の先取特権を有することを証明した債権者です。これらの債権者は同じく所定の期日(配当要求の終期)までに配当要求を行います。
上記の手続きを通じて裁判所は配当を受けることができる債権者の範囲を確定します。
入札・売却の実施
現況調査・評価によって売却基準額が決定され、債権調査によって配当を受ける者が定まると、裁判所は売却の手続きに入ります。売却方法としては実務上は期間入札の方法がとられます。期間入札とは、一定の入札期間内に買受申出人が金額を指定して入札し、その最高額であった者(最高価買受申出人)が落札するというものです。入札期間は1週間以上1ヶ月以内で定められ、開札期日は入札期間の満了後1週間以内の日とされます。買受申出人は入札に際して保証金(通常は売却基準価額の2割)を提供しなければなりません。
入札を行っても適法な買受申出がなされない場合には、裁判所は特別売却という方法で売却することができます。
裁判所は入札によって買受人(最高価買受申出人)が決定されると、売却を許可するか否かを決定します。所定の不許可事由に該当しない限りは売却の許可決定がなされます。決定は1週間で確定し、買受人は確定から1ヶ月以内に代金を納付します。
買受人が代金を納付すると不動産の所有権を取得します。裁判所はこの買受人による所有権の取得に伴い、法務局に対して所有権の移転登記と抵当権等の抹消登記を依頼します。仮に買受人が期限までに代金を納付しなかった場合、売却許可決定は効力を失い、しかも買受人が事前に提供していた保証金は没収されます。その上で、次順位の買受申出人がいる場合にはその者に売却され、そのような買受希望者がいない場合には入札をやり直すことになります。
配当
売却代金の配当を受けられる債権者は以下の債権者です。
- 差押債権者
- 配当要求の終期までに配当要求をした債権者(上記5(3)参照)
- 差押えの登記前に登記された仮差押えの債権者
- 差押えの登記前に登記がされた先取特権質権又は抵当権で売却により消滅するものを有する債権者(特に抵当権者が重要です。また、仮差押えの登記後に登記されたものである場合には一定の場合のみ配当を受けることができます。)
債権者が1人である場合又は債権者が2人以上であっても売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、残額を債務者に交付します。これ以外の場合(売却代金が債権等の総額に満たない場合)は売却代金を分配するための手続きを行います。具体的には、裁判所は、民法、商法その他の法律の定めるところにより配当の順位及び額を定める配当表を作成し、これに基づいて配当を実施します。配当表の内容に異議がある債権者は配当に対して異議を申し立て、その内容を争うことができます。
【配当額1000万円の配当の例】
担保される債権額 |
配当額 |
|
第1順位抵当権者 |
500万円 |
500万円 |
第2順位抵当権者 |
300万円 |
300万円 |
第3順位抵当権者 |
500万円 |
200万円 |
第4順位抵当権者 |
200万円 |
0円 |
担保不動産競売の注意点
(1)無剰余取消
不動産に複数の抵当権が設定されている場合において、後順位抵当権者が競売を申し立てることがあります。しかし、仮に不動産を競売で売却してもその売却価格次第では先順位抵当権のみが配当を受けることができ、申立てをした後順位抵当権者は配当を受ける見込みがないことがあります。このようなケースは「無剰余」といいます。
担保不動産競売においては、無剰余の場合、すなわち、買受可能価額(上記5(2))が手続費用及び優先債権(先順位抵当権等)の見込額の合計額に満たない場合、原則として競売手続きは取り消されてしまいます。そのため、後順位の担保権者が競売申立てを検討するに際しては、先順位の抵当権と不動産の評価額に注意する必要があります。
(2) 任意売却
不動産競売には相応の時間と手続き費用がかかります。また、競売物件にはリスクがあることから、その売却価格は一般の市場価格よりも低額になってしまいます。そこで、競売ではなく通常の取引として対象不動産を売却し、その売却代金から担保権者が回収を図るという方法もあります。債務者としても不動産が高額で売れた方が債務の圧縮に繋がりますし、信用悪化のダメージも軽減されます。そのため、当事者の合意が可能なケースでは任意売却を行うのが一般に得策であるといえます。もっとも、抵当権者が多数の場合には合意の形成が容易でないこともあり、常に任意売却が可能というわけではありません。
債権回収に関して他にもお役に立つ記事を掲載しています。
【記事カテゴリー】債権回収
【参考記事】債権回収の方法のまとめ
【参考記事】債権回収を弁護士に依頼する場合のポイントのまとめ(企業向け)
債権回収について自社で対応されているでしょうか?
弁護士に依頼することでより確実に回収できる可能性があります。
【業務案内】債権の回収・保全
-
サイト管理人/コラムの著者
弁護士 赤塚洋信
アドバイスの実績は100社以上。
企業・法人の方にビジネスに関する法律サービスを提供しています。 -
電話・メールによるお問合せ
林総合法律事務所
TEL.03-5148-0330
(弁護士赤塚をご指定ください)メールによるお問合せは
こちらのページ -
業務案内