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債権回収

売掛金の時効 - 債権回収の留意点

投稿日 : 2018年01月07日

売掛金の債権回収において留意する必要のある時効(消滅時効)について解説します。

時効(消滅時効)とは

時効の説明

時効(消滅時効)とは、権利を行使しないで一定の期間を経過すると、その権利が消滅してしまう制度のことです。権利が消滅してしまうと原則としてその権利を相手方である債務者に請求することはできなくなります。上の図で言えば、自社が取引先に対して売掛金を有している場合において、売掛金の時効期間である2年が経過すると最早取引先に対して売掛金を支払うように請求することができなくなってしまいます。このように、時効は自社の請求権に決定的な影響を及ぼすことから時効が完成しないよう適切にモニタリングする必要があります。

時効の制度は一見すると債権者にとって酷であり、債務者の逃げ得を許すようにも見えますが、このような制度が設けられているのにはそれなりの理由があります。時効の制度が設けられている理由としては主に3つが挙げられます。

1つは事実状態の保護です。権利があるにもかかわらず一定の期間請求がなされない場合、そのような事実状態を基礎として新たな法律関係が形成されます。そこで、権利の行使を制限して新たに形成された法律関係が覆らないようにするというものです。

2つ目は「権利の上に眠る者は保護しない」という考え方です。権利者が権利を行使しようとすればできたにもかかわらず、それを相当な期間怠っていた場合、保護に値しない、とするものです。

3つ目は立証の困難を救済するためです。長期間が経過すると自らの権利や主張を裏付けるための証拠が失われる可能性が高まります。そのような場合に証拠がないことを理由に権利や主張を否定するのは正義に反するといえます。そこで時効の制度を設けて立証の困難を救済するというものです。

時効期間

時効期間は権利の性質によって異なります。民法の原則では時効は権利を行使することができる時から起算して10年で完成するとされています。しかし、企業間取引においては商法が適用され、商事に関する債権の時効期間は5年とされています。その他、法律の規定によって特定の権利に関しより短い時効期間が定められています。以下のとおりです。

【企業間取引において特に注意が必要な時効期間】

権利の種類

時効期間

商品等の売掛金

2年

工事請負代金

3年

手形の振出人への請求権

3年

手形の裏書人への請求権

1年

小切手の振出人への請求権

6ヶ月

企業間取引の契約違反(債務不履行)に基づく損害賠償請求権

5年

一般の商事債権

5年

【その他の時効期間】

権利の種類

時効期間

民法上の原則的な時効期間

10年

労働者の賃金債権

2年

運送代金

1年

宿泊代金、飲食代金

1年

診療報酬債権

3年

金融機関の貸金債権

5年

リース料債権

5年

預貯金の払戻請求権

10年

社債償還請求権

10年

製造物責任に基づく権利

損害及び加害者を知った時から3年(又は製造物の引渡時から10年)

不法行為に基づく損害賠償請求権

損害及び加害者を知った時から3年(又は不法行為時から20年)

確定判決に基づく権利

10年

時効期間は公益に関するものとされています。そのため、あらかじめ当事者間の合意で時効期間を短くしたり長くしたりすることはできません。例えば、商品の売買に関する契約書において、「代金債権の時効期間を5年とする」という条項を設けたとしても、そのような規定は無効です。商品の代金債権については法律の規定により時効期間は2年となります。

時効の起算点

時効は権利を行使することができる時から進行するとされています。例えば、支払日が定められている売掛金の場合、当該支払日が権利を行使することができる時にあたります。もっとも、法律上の期間の計算においては初日を算入しないとされていることから、時効期間は支払日の翌日から進行します。

時効の中断(時効期間のリセット)

時効の起算点が到来して期間の計算が始まったとしても、常に時効期間が滞りなく進行するわけではありません。時効期間の満了前に所定の事由が生じた場合、その進行がストップし、最初に戻って期間の計算が始まることになります。言わば、時効期間が一旦リセットされて最初からやり直すことになるのです。これを法律用語で「時効の中断」といいます。「中断」というと一時的に停止するだけのような語感がありますが、そうではなく、最初から計算し直すことになります。極端な話、あと1日で時効が完成するという場合であっても、そのタイミングで時効が中断すると時効期間は振出しに戻ってしまいます。

時効の中断事由としては以下の3つがあります。

① 請求
② 差押え、仮差押え、仮処分
③ 債務の承認

(1)請求

上記のうち、①の「請求」とは典型的には訴訟の提起です。すなわち、時効が完成する前に訴訟を提起すればその時点で時効期間の進行は止まります。訴訟で判決を得るには相応の時間がかかりますが、訴訟が続いている間は時効は完成しません。訴訟を提起することなく、債務者に督促状を送付することは、法律上は「催告」といい、訴訟の提起とは区別されます。催告の場合、催告を行ってから6ヶ月以内に訴訟の提起等のより強い手続きをとらなければ中断の効力は生じません。逆に言うと、簡易な方法である催告を行うことによって6ヶ月間は時効の完成が猶予されるので、一定の時間的余裕を得ることができます。その間に訴訟提起の準備を進めることができます。①の「請求」には上記の他に支払督促の申立て、和解及び調停の申立て、破産手続き等への参加があります。

(2)差押え、仮差押え、仮処分

②の差押え、仮差押え、仮処分とはそれぞれ債権の回収や保全のために行われる手続きです。

【差押え】
差押えとは、債務名義(確定判決等)を有する債権者が債務者の財産(不動産、動産、債権)に対して行う強制執行の手続きです。差押えの対象となる債務者の財産を競売にかけてその売却代金から回収を図るというものです。差押えは既に勝訴判決を得ている等、債権者の債務者に対する権利が確定している場合にのみ行うことができます。

【仮差押え】
仮差押えは勝訴判決等がなくても行うことができる債権保全のための手続きです。訴訟を提起して判決を得るには時間がかかることから、その間に債務者の財産が散逸し、判決を得ても回収を図れない可能性があります。そこで、仮差押えを行うことで、債務者の財産の状態を固定化し、将来の執行に備えることができます。なお、仮差押えは金銭の支払いを目的とする権利を保全するためにのみ行うことができます。また、仮差押えはあくまでも現状を維持するだけの効果にとどまり、競売にかけて財産を換価することはできません。

【仮処分】
金銭の支払い以外を目的とする権利を保全するのが仮処分です。例えば、賃貸不動産のオーナーがテナントに対して物件の明渡しを求める訴訟を提起する際に、テナントに対して占有移転禁止の仮処分(テナントが他人に物件を使わせることを禁止する仮処分)を行うのが典型です。判決の執行前に物件の占有者が変わってしまうと執行ができなくなるので、それをあらかじめ防止するために行われます。

(3) 承認

③の承認とは、債務者が債権者に対して債務を負っている旨を認めることです。上記の①②は債権者が行う手続きであるのに対し、③の承認は債務者が行うものとなります。例えば以下のような場合には承認があったとみられます。

  • 債務者が債権者に対して債務を負っている旨を表明する。
  • 債務者が債権者に対して支払いの猶予を求める。
  • 債務者が債務の一部を支払う。

実務では、承認を記録に残すために債務承認書を作成して債務者に記名押印してもらうことが一般的です。また、債務承認書を出してくれるかが明らかでない債務者に対しては、より抵抗感の少ない形式で相手方が債務を認めていることを証拠化することが考えられます。例えばメール等のやりとりを通じて相手方の債務に関する認識が示されるようにするのも有効と思われます。ポイントは、口頭のやりとりではなく書面等の客観的な記録に残るようにすることです。

時効の援用

法律上、時効は当事者が援用しなければ、裁判所が時効について裁判をすることができない(時効を認めることができない)とされています。この援用とは具体的には債務者が対象となる債権の時効完成を主張し、時効による利益を享受する旨を表明することです。援用の法的な性質については諸説ありますが、判例は援用によって初めて時効による権利消滅の効果が生じる、という立場をとっていると解されています。

債務者は時効完成後において、時効を援用する権利を放棄することができます。援用する権利を放棄してしまうと最早当該時効を理由として支払いを拒むことはできません。これとは異なり、時効完成前にあらかじめ時効を援用する権利を放棄することはできません。

時効完成後の債務の承認(時効援用権の喪失)

時効が完成した後に債務者が債務を承認するとどうなるでしょうか。上記4で述べたとおり、債務承認は時効の中断事由とされていますが、既に時効期間が経過しているため、時効が中断する(最初から計算し直す)ことはありません。しかしながら、債務の承認を受けた債権者としては、最早債務者が時効を援用しないと期待するのが通常です。また、一旦債務を承認しておきながら、後で時効を援用するのは矛盾した態度といえます。そこで、判例は、時効完成後に債務者が債務を承認した場合、信義則上、時効を援用することは許されないという立場をとっています。そのため、結論として、時効完成の前後を問わず、債務者が債務承認をすると時効を主張できなくなります。

なお、自社が債権回収を図る立場である場合において、既に対象となる請求権の時効期間が経過しているときには、債務者である取引先に対して、「時効を放棄して欲しい」と要請するのは得策ではありません。取引先としては時効完成について知らない可能性もある(そのようなケースの方が多いと思われます)ことから、上記の要請によって逆に時効完成を認識してしまい、その援用を促すおそれがあるからです。むしろ、自社としては時効について触れることなく単に債務の内容確認を求めるなどして債務承認となるべき事実を記録化するのが賢明といえます。上で述べたとおり、時効完成後の債務承認があれば時効の主張を防ぐことができ、時効の放棄と同様の効果を得ることができるからです。

まとめ

これまでに説明してきた内容を踏まえてプロセスを図示すると以下のとおりです。

時効が成立する流れ

自社が取引先から債権の回収を図るにあたっては、対象となる請求権の性質に応じ、時効期間がいつ完成するのかを正確に把握する必要があります。時効完成のリスクがある場合、債務承認を得るなどして時効の中断を図ります。また、時効が完成してしまった後でも時効援用権を喪失させるべく、やはり債務承認を求めることになります。

時効は一定期間の経過によって権利を消滅させるという強力な法的効果を持つ制度です。実務においても債務者が時効を主張して支払いを拒むことはよく見られ、訴訟の帰趨を決する争点となることも稀ではありません。特に短期の消滅時効が適用される請求権に関しては注意が必要です。

改正民法の内容

時効制度は平成29年(2017年)5月26日に成立した改正民法によって内容が大きく変更されました。改正民法の施行日は平成32年(2020年)4月1日です。

改正法では、請求権ごとに定められていた時効期間が原則として以下に統一されることになりました。

【以下のいずれか早い方の経過によって時効が完成】

  • 権利を行使することができることを知ったときから5年
  • 権利を行使することができるときから10年

現行の時効制度と比較して大幅に簡素化されることとなります。また、用語も変更され、現行制度の「中断」は「更新」という用語になります。

改正民法について詳しくはこちらの法務省のウェブサイトもご参照ください。
          


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