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債権回収

仮差押えを利用した債権回収

投稿日 : 2017年12月10日

仮差押えについて解説します。

仮差押えとは

自社が取引先に請求権(売掛金・貸金)を有している場合において、取引先が任意に支払いをしないときには、最終的には訴訟を提起して強制的に債権回収を図ることになります(強制執行)。

しかし、訴訟手続きには相応の時間がかかることから、その間に取引先が有している資産が散逸してしまうおそれがあります。そうしますと、せっかく勝訴判決を得ても差し押さえるべき資産がないという事態が生じてしまいます。

強制執行の流れ

そこで、勝訴判決を得た場合に確実に取引先の資産を差し押さえることができるよう、取引先が有する資産の処分を禁止し、現状を維持するための手続きが仮差押えです。

仮差押えの例

仮差押えの要件

仮差押えの要件は、①被保全権利があることと、②保全の必要性があることです。

要件①【被保全権利】

被保全権利とは、仮処分によって保全される権利であり、具体的には自社の取引先に対する売掛債権です。金銭の支払いを目的とするものである必要があります(貸金や売掛債権であれば問題ありません)。条件付又は期限付であっても差し支えありません。

要件②【保全の必要性】

保全の必要性とは、仮差押えをしないと将来の判決の執行ができなくなるおそれがあること、すなわち取引先の資産の現状を維持する必要があることです。取引先に資力が十分あり、将来の支払い能力に懸念がないような状態であれば保全の必要性は認められません。そのため、仮差押えを認めてもらうためには、取引先の信用状態が悪化しており、判決の執行を待っていたのでは財産の費消・散逸のおそれがあることを示す必要があります。

仮差押えの対象

仮差押えの対象には制限はなく、取引先の資産であれば基本的に何であっても仮差押えをすることができます。具体的には、土地・建物といった不動産、商品在庫や機械などの動産、取引先が有する預金や売掛債権も対象となります。もっとも、動産や債権に対して仮差押えをすることは取引先の事業に大きな影響を及ぼします。場合によっては仮差押えが倒産の引き金となることもあります。この点については後述します。

仮差押えの手続き

(1)要件の疎明

仮差押えは管轄を有する裁判所に対して申立てをする方法によって行います。申立ての際、上記2で述べた仮差押えの要件である被保全権利の存在と保全の必要性について疎明(そめい)をする必要があります。

疎明とは、裁判所に対して一応確からしいという心証を持ってもらう程度に証拠を提出することです。仮差押えは正式の訴訟ではない暫定的な手続きなので、訴訟で要求されるほどの高度の立証は要求されませんが、それでも裁判所が命令を出しても良いと考える程度にまで裁判所を説得する必要があります。

正式な訴訟と同様、仮処分においても自社の主張の裏付けとなるような客観的な疎明資料(文書)を提出することが重要です。例えば、被保全債権の疎明資料としては取引のために作成された契約書、納品書、受領書、請求書などを提出することが考えられます。また、保全の必要性の疎明資料としては、取引先に送付した督促状、FAX、メール、また、取引先の信用状態に関する調査書、報告書、陳述書などを提出することが考えられます。

(2)裁判官面接

東京地裁では、仮差押えの申立て後、裁判官との面接が行われます。面接では、申立書に記載した事実関係や疎明資料の内容などについて裁判官から質問がなされます。また、必要に応じて疎明資料の追加提出が求められることもあります。裁判官面接は裁判官と直接話し合って説得するための貴重な機会です。書面での疎明が重要であることは間違いありませんが、特に取引の経緯や取引先の現状については口頭で説明する方が分かりやすいこともあると思います。裁判官の問題意識を汲み取って丁寧に対応することが大切です。

(3)申立手数料

申立手数料は1件につき2000円です。申立書に印紙を貼付する方法で納付します。

(4)担保金(保証金)

仮差押命令の発令に際しては、通常、担保を立てることが求められます。この担保は将来における取引先の自社に対する損害賠償請求権の引当てとなるものです。すなわち、仮差押命令は相手方となる取引先の反論を聴取しないまま、自社の主張だけを聞いて裁判所が発令します。そのため、仮処分命令の発令後に正式な裁判が行われた場合、自社の主張が認められず、結果として仮処分の申し立てが不適切であったとされることがあります。

そのようなケースでは、取引先は自社による不適切な仮処分申立てによって一定期間対象資産の処分を禁じられるという不利益を被っています。当該不利益について取引先は自社に対して損害賠償を請求することができます。そのような将来の請求権をカバーするのが仮差押えの担保です。

この担保金の金額は仮差押えの対象となる資産の価額が基準となります。概ね対象となる資産の価額の10%~30%の範囲で裁判官が決定します。担保金の金額は取引先の被る不利益の程度や被保全債権の存在の確実性などを考慮して定められます。担保金は法務局に供託する方法で支払います。

仮差押えのメリットと注意点

仮差押えは自社の主張立証のみで裁判所に発令してもらうことができ、簡易迅速に取引先の資産の現状維持を図ることができます。また、取引先の預金債権や商品在庫を仮差押えすることができれば、取引先にとっては事業継続の大きな支障となり、仮差押えを解除してもらいたくて自社への支払いに応じてくることもあります。仮差押えの本来の役割は資産の現状を維持し、将来の判決の執行を確保するということにありますが、実務上は上記のように債権回収における交渉上のテコとしても活用できます。

他方で、注意点としては、仮差押えはあくまでも資産の現状を維持するものに過ぎず、自社に優先権が認められるわけではないということです。すなわち、仮差押えの対象となった資産は全ての債権者にとっての引き当てとなる財産であり、債務名義さえ取得すればいずれの債権者であっても差し押さえをすることができます。自社による仮差押えが成功しても、そのことによって自社が対象資産から優先的に債権回収を図ることができるわけではありません。債務名義を持った他の債権者との関係では対象資産からの回収において競合することになります。

さらに、より注意すべき点として、自社による仮差押えによって取引先の信用状態が悪化し、場合によっては倒産の引き金を引いてしまうリスクがあるということです。例えば、預金債権の仮差押えをすると、その口座を開設している金融機関は取引先の支払い能力が顕著に悪化したと見て融資の回収に走るおそれがあります。また、取引先の顧客に対する売掛債権を仮差押えすると、やはり取引先は当該顧客からの信用を失い、取引を継続することができなくなるおそれがあります。

このように、仮差押えは取引先の信用悪化を招き、結果として自社の債権回収が不首尾に終わることもあるので注意が必要です。他方で、上記のとおり取引先に対するインパクトがある方が自社に対する任意の支払いを促す効果も大きいと考えられ、そのような効能とリスクとを慎重に検討して進める必要があります。
         


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