債権回収
債権回収の方法-支払督促の活用
投稿日 : 2017年12月23日債権回収の方法としての支払督促について解説します。
支払督促とは
自社が取引先に対して金銭支払いの請求権(売掛金や貸金)を有している場合、通常は自社が取引先に督促状を送るなどします。本稿で説明する支払督促とは、自社に代わって裁判所から取引先宛に督促の書面を出してもらう手続きです。自社が送付する督促状とは異なり、裁判所が送達する支払督促に対して取引先から異議が出されなければ、勝訴判決と同じ法的効果(債務名義)を得られます。また、通常訴訟に比べて手続きが簡易迅速であるというメリットもあります。他方で、注意点もありますのでその利用にあたっては慎重に検討する必要があります。
支払督促のメリット
通常の裁判手続きとの比較において、支払督促のメリットは以下のとおりです。
【メリット①:簡易迅速な手続き】
自社(債権者)が提出した主張のみに基づいて審査が行われます。裏付けとなる証拠を提出する必要はありません。手続きのための期日が開催されることもありません。取引先(債務者)から異議が出されない場合、1~2ヶ月で全ての手続きが完結します。通常の訴訟を行う場合には早くても数か月を要することを考えると格段に早いといえます。
【メリット②:勝訴判決と同じ法的効果(債務名義)を得られる】
支払督促によって得られる法的効果は勝訴判決と同じです。それによって取引先の財産を差し押さえて回収を図ることができます(強制執行)。
【メリット③:費用が安い】
支払督促のために裁判所に納付する手数料は通常の訴訟の半額です。また、弁護士に依頼せず本人で申し立てることも十分可能であり、弁護士費用も節約することができます。
支払督促の手続き
- 自社(債権者)が所轄の簡易裁判所に支払督促を申し立てます。
- 裁判所は申立て内容を審査し、要件を満たす場合には取引先(債務者)に支払督促を送達します。
- 取引先は支払督促の受領後2週間以内に異議を申し立てることができます。異議の申立てがあった場合、通常訴訟に移行します。
- 上記3の異議の申立てがなされない場合、自社は仮執行宣言の申立てをすることができます。仮執行宣言の申立ては、支払督促の送達後2週間が経過してから30日以内に行う必要があります。
- 裁判所は申し立て内容を審査し、要件を満たす場合には仮執行宣言を行ったうえで取引先に仮執行宣言付支払督促を送達します。この仮執行宣言付支払督促により取引先の財産を差し押さえることができるようになります(強制執行)。
- 取引先は仮執行宣言付支払督促の受領後2週間以内に異議を申し立てることができます。異議の申立てがあった場合、通常訴訟に移行します。
- 上記6の異議の申立てがなされない場合、自社は勝訴判決と同様の法的効果(債務名義)を得ることができます。
支払督促の書式
支払督促の手続きに用いる書類の書式は裁判所のホームページで公開されています。こちらからダウンロードできます。
支払督促の注意点
【注意点①:異議を申し立てることで容易に支払督促を失効させることができる】
取引先は支払督促を受領してから2週間以内に異議を申し立てることで支払督促を失効させることができます。この異議の手続きは異議がある旨の書面を提出するだけであり、極めて容易です。そのため、自社の請求に対して争う意向のある取引先としては支払督促を受け取ったらほぼ確実に異議を出すことになります。そのため、支払督促は支払い義務の存在について争いのない案件では有用と思われますが、争いがある案件では利用価値は高くないといえます。
なお、司法統計(平成28年度)によると支払督促が発付された件数は276,030件で、そのうち仮執行宣言前に異議の申立てがあったのは69,077件、仮執行宣言が付されたのは102,810件でした(発布件数との差は取下げがなされたものと思われます)。また、仮執行宣言が付された後に異議の申立てがあったのは7,635件でした。異議の申立ての件数の合計は76,712件で、これは発付件数の28%にあたります。
【注意点②:通常訴訟に移行してしまう】
取引先が支払督促に対して適法に異議を申し立てた場合、通常訴訟に移行します。この通常訴訟への移行は阻止することができません。仮に自社としては手間や費用の関係で訴訟まではやりたくないと考えていても自動的に訴訟に移行してしまうのです。通常訴訟で敗訴すれば請求権を失うことになってしまいますから、訴訟には対応せざるを得ません。このように、自社が訴訟を希望するか否かにかかわらず通常訴訟に移行してしまうおそれがあります。
【注意点③:通常訴訟を行うのは取引先の所在地にある裁判所】
取引先から異議が申し立てられた場合、通常訴訟に移行します。この通常訴訟を管轄するのは取引先の所在地にある裁判所です。つまり、取引先の所在地で訴訟を行う必要があります。本来であれば、金銭支払いの請求については自社(債権者)の所在地にある裁判所で訴訟を行うことができます。しかし、支払督促に対して異議が申し立てられた場合には、自社ではなく取引先の所在地で訴訟を行うことになるのです。もし自社と取引先が同じ裁判所の管轄内にあれば問題はありませんが、取引先が遠方にある場合には不都合であるといえます。訴訟に移行した後に訴訟を回避したいと考えた場合には取り下げをすることになります。
まとめ
支払督促は取引先(債務者)から異議が出されない限りは簡易迅速に勝訴判決と同じ法的効果を得られる便利な制度ではありますが、異議が出されてしまうと目的を達成できないばかりかデメリットも生じえます。そのため、支払督促は取引先が異議を出さないことが確実であるような場合には検討する価値がありますが、自社と取引先との間で争いがあるような場合には不向きであるといえます。
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