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会社法

取締役の競業避止義務

投稿日 : 2018年04月15日

取締役の競業避止義務(競業取引の規制)に関する会社法上の規定や判例について解説します。なお、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は本稿の対象ではありません。

競業避止義務とは

競業避止義務とは、取締役が自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引を行ってはならないという義務をいいます。例えば、日用品卸売業を営む会社の取締役が、同じく自らの名義で日用品の卸売を行うことは許されません。

取締役は会社の営業上の秘密や顧客情報等を知るべき立場にあることから、取締役が会社の事業と同種の取引を行う場合には会社の情報を利用するおそれが大きいといえます。会社の情報は本来その会社のためのものであり、取締役がそれを自己又は第三者のために利用することは許されるべきではありません。そこで、取締役による競業取引は会社法によって規制され、競業取引を行う場合には会社による承認を受けなければならないとされています。

会社法の規定

競業避止義務に関する会社法の規定は以下のとおりです。

会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

(以下略)

会社法第365条(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)

取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

2 取締役会設置会社においては、第356条第1項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。

競業の範囲

規制の対象となる行為は「会社の事業の部類に属する取引」です。これは、会社が行っている取引とビジネス上実際に競合する取引をいいます。会社が取り扱っている商品を同じ地域で販売することが「会社の事業の部類に属する取引」に該当することはもちろんですが、それに限られず、判例ではその商品の原材料を購入する取引であっても競業になるとしたものがあります。

会社が全く進出していない地域における同種の取引は競業とはいえないので規制の対象にはなりません。しかし、判例では、実際に会社が進出していない場合であっても、会社が進出を企図して市場調査を進めていた地域における同種の取引は競業になるとしたものがあります。

なお、取締役が会社と競合する別の会社(競合会社)の取締役等に就任することは「取引」ではないため、それ自体が規制されるわけではありません。しかし、競合会社の取締役等に就任した後に当該競合会社のために競業取引を行う場合には規制の対象になります。

自己又は第三者のために行うこと

規制の対象となるのは、取締役が競業取引を「自己又は第三者のために」行う場合です。この「自己又は第三者のために」ということの意味としては、「自己の名義又は第三者を代理して」と解する立場と、「自己又は第三者の計算において」と解する立場があります。前者は名義を基準として、後者は経済的効果を基準に考える立場です。判例は経済的効果を基準に考えています。

重要な事実の開示と会社による承認

取締役が競業取引を行おうとする場合には、会社に対して当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。

この開示の対象となる重要な事実とは、会社にとって問題となる競業取引がどのような内容であるかを具体的に把握でき、それに基づいて承認をするか否かを判断できる程度のものである必要があります。例えば、競業取引の対象となる商品やサービスの内容、数量、取引金額、取引相手などを開示することになります。

会社において競業取引の承認を行う機関は、取締役会設置会社である場合には取締役会、取締役会を設置していない会社である場合には株主総会です。取締役会における承認に際しては、競業取引を行おうとしている取締役はその決議に参加することはできません。当該取締役は決議に関して特別の利害関係を有するとみられるからです。

上記の承認は単発の取引に関してなされる場合のほか、一定の範囲で包括的に承認をすることもできると解されています。例えば、特定の類型の取引を反復継続して行う場合や、取締役が他の会社の代表取締役に就任して今後競業取引を行う場合には、そのような将来の取引について包括的に承認するのが効率的といえます。そのような包括承認は親会社が子会社に代表取締役を派遣する場合などになされることがあるようです。

取引後の報告

取締役会設置会社においては、取締役が競業取引を行った場合、取引後遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないとされています。

承認を得ない取引の有効性

取締役が取締役会又は株主総会の承認を得ないで競業取引を行った場合であっても、当該取引自体は有効に成立します。承認の有無は取締役と会社間の問題であって取引には直接関わらない手続きであり、また、取引の安全を図る必要があるからです。

しかし、承認を得ない競業取引は取締役としての義務違反であり、会社が損害を被った場合には当該取締役に対して損害賠償を請求できます。さらに、承認を得ない競業取引によって取締役個人又は第三者が得た利益の額は会社の損害額と推定されます。これは会社による損害額の立証の負担を軽減するものです。これにより、会社は取締役に対して競業取引によって得た利益の金額を請求しうることになります。

取引の有効性とは別の問題ですが、取締役が承認を得ない競業取引を行った事実は当該取締役の解任事由になりうるといえます。

競業取引に関連する問題

(1)会社の機会の奪取

取締役が会社の事業と競合する取引を行うことは規制を受けますが、前述のとおり会社の事業と競合しない場合は特に規制の対象とはなりません。しかし、例えば取締役が会社の業務遂行の過程で新規事業の着想を得たとして、それは会社としても関心を示すはずの事業である場合、取締役が自己又は第三者のために当該新規事業を始めることが許されるか、という問題があります。

会社の事業とは競合していないため競業取引の規制は受けないものの、取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っており、そのような新規事業は会社の事業として行うべきであると考えることができます。取締役が具体的な状況の中でどのような義務を負うかは、どのような情報を用いたのか、情報の業務関連性、会社の既存事業と新規事業の距離、などを踏まえて検討されることになります。

(2)取締役による従業員の引抜き

取締役が退職後に会社と競合する事業を行うことを計画し、在任中に従業員に対して退職を勧め、自己の経営する新会社に移るよう促すことがあります。このような行為は取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反するのではないかが問題となります。実際、複数の判例ではこのような在任中の従業員の引抜き行為が取締役の義務違反にあたると判断されています。

(3)退任した取締役による競業取引

取締役は退任後であれば会社の承認がなくても競業取引を行うことができます。この点については裁判例における以下の判示内容が参考になります。

「会社の取締役又は従業員は、その退任後又は雇用関係終了後においては、その一切の法律関係から解放されるのであつて、在任又は在職中に知り得た知識や人間関係等をその後自らの営業活動のために利用することも、それが旧使用者の財産権の目的であるような場合又は法令の定め若しくは当事者間の格別の合意があるような場合を除いては、原則として自由なのであつて、退任ないし退職した者が、旧使用者に雇用されていた地位を利用して、その保有していた顧客、業務ノウハウ等を違法又は不当な方法で奪取したものと評価すべきようなときでない限り、退任ないし退職した者が旧使用者と競業的な事業を開始し営業したとしても、直ちにそれが不法行為を構成することにはならないものと解するのが相当である。」(東京地判平5・8・25判時1497号86頁)

取締役と会社の間において、その委任契約の中で退任後の競業禁止が定められている場合があります。そのような競業禁止は取締役の職業選択の自由を制限するものなので、無制限に有効とされるわけではなく、社会的に相当とされる範囲を超えるものは公序良俗に反し無効とされます。

裁判例では、制限の期間、場所的範囲、職種、代償の有無を考慮し、退任後2年間の競業行為を禁ずる旨の合意を有効と判断したものがあります。
      


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