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会社法

取締役の善管注意義務

投稿日 : 2018年06月01日

取締役の善管注意義務について解説します。

会社と取締役の関係

会社と取締役の関係は、会社を委任者とし、取締役を受任者とする委任関係にあります。根拠となる条文は以下のとおりです。

会社法第330条(株式会社と役員等との関係)
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

民法第644条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

会社と従業員の関係は雇用関係であり、従業員は会社の指揮命令に従う関係にあります。これに対し、委任関係にある取締役は会社から指揮命令されるのではなく、取締役としての職務を自己の裁量で遂行することが求められています。そして委任関係に基づき受任者としての責任を負います。それが善管注意義務と呼ばれるものです。

善管注意義務とは、「善良なる管理者の注意義務」のことであり、ある業務を委任された者がその分野の職業人・専門家として一般に期待される注意義務を意味します。取締役の場合、一般に取締役としての地位にある者に要求される水準の注意義務を果たす必要があることになります。

善管注意義務と忠実義務の関係

上記のとおり取締役は会社に対して善管注意義務を負っていますが、同時に、会社法上、忠実義務を負うとされています。以下のとおりです。

会社法第355条(忠実義務)
取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

善管注意義務と忠実義務は異なる義務を定めたものとする見解もありますが、判例はこの両者を区別していません。判例では、忠実義務は民法に定める善管注意義務を詳しく説明したものであり、善管注意義務とは別個の高度の義務を規定したものではないとしています。

善管注意義務が問題になる場面

(1)法令等に違反する行為をすること

取締役がその職務を遂行するにあたり、法令等に違反するような行為をすることは当然のことながら善管注意義務に違反するものです。また、取締役は会社の重要な意思決定に関与しますが、会社をして法令等に違反させないようにすることも取締役の義務です。そのため、取締役の判断として会社に法令違反行為をさせるようなことがあれば善管注意義務に反すると評価されます。

(2)監視・監督義務を怠ること(会社の違法行為を見逃すこと)

取締役はその職務の一環として他の取締役や従業員を監視・監督する義務を負っています。この監視・監督義務とは、他の取締役等が適正に職務を行っているかを監督することです。特に、業務執行権限を有する代表取締役や業務執行取締役による業務執行を監督することが重要となります。例えば、ある取締役が違法な行為を行おうとしていることについて、別の取締役がその動きに気付いた場合、当該取締役(気付いた者)はその行為をやめさせるのに必要な措置をとることが求められます。

また、取締役が監視・監督義務を負う対象は自らの所掌事務や取締役会に上程された事項に限られるものではありません。会社全体の業務について監視・監督義務を負うと解されています。担当外というだけで責任を免れるわけではないので注意が必要です。

もっとも、名目的な取締役で他の取締役(特に代表取締役)の行為を止めることが現実に難しい場合には責任が否定されることもあります。また、違法行為が秘密裏に行われ、発見が困難であった場合にも義務違反はないと判断される場合もあると思われます。

(3)経営判断の失敗により会社に損害を与えること

取締役は会社の事業について意思決定をしますが、その決定が結果として誤りであって会社に損害を与えることもあります。そのような場合に常に善管注意義務違反であるとして責任を負わせるのは取締役に酷であるといえます。また、結果責任を負わされるとなると、取締役がリスクをとって積極的な経営判断をすることを躊躇してしまいます。そこで、そのような場面での取締役の責任の有無については経営判断の原則という考え方に基づいて判断されます。

経営判断の原則の下では、判断当時の具体的な状況に照らして、①判断の前提となった事実についてしかるべき調査、情報収集が行われたか、②その意思決定が経営者として不合理な判断ではないか、という観点から義務違反が審査されます。そのため、経営判断の失敗があったとしても、取締役が直ちに義務違反であるとして責任を負うのではなく、その判断過程において十分な注意を尽くしていたかが問題となります。

判例は比較的取締役の判断を尊重する立場であると解されます。以下のような事例があります(最判平20・7・15判時2091号90頁)。

(事案の概要)
不動産会社(A会社)がマンスリーマンション経営を主業とする会社(B会社)の株式の約66.7%を保有していたところ、A会社がB会社を100%子会社化することを企図し、小数株主から株式を1株5万円で買い取るなどした。このB会社株式の評価額は、ある評価会社によれば9709円、別の評価会社によれば6561円ないし1万9090円とされていた。そこで、A会社の取締役がB会社の株式を5万円と評価して買い取ったことが善管注意義務に違反するのではないかが問題となった。

(最高裁の判旨)
株式の買取価格について、B会社の設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば、払込金額である5万円を基準とすることには、一般的にみて相応の合理性がないわけではなく、A会社以外のB会社の株主にはA会社が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており、買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後におけるA会社及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや、非上場株式であるB会社の株式の評価額には相当の幅があり、事業再編の効果によるB会社の企業価値の増加も期待できたことからすれば、株式交換に備えて算定されたB会社の株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても、買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い。そして、本件決定に至る過程においては、参加人及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され、弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって、その決定過程にも、何ら不合理な点は見当たらない。以上によれば、本件決定についての上告人ら(取締役)の判断は、A会社の取締役の判断として著しく不合理なものということはできないから、上告人らが、A会社の取締役としての善管注意義務に違反したということはできない

善管注意義務に違反したことによる責任(任務懈怠責任)

取締役が善管注意義務に違反すると、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。これは任務懈怠責任と呼ばれるものです。賠償額は取締役の行為又は不作為によって会社が被った損害の金額です。これを任務懈怠責任といいます。任務懈怠責任についてはこちらの記事(取締役の会社に対する責任(任務懈怠責任・会社法423条))をご覧ください。

取締役が損害賠償義務を負う場合には、仮に会社が取締役に責任追及をしなくとも、一定の要件の下で株主が訴訟を提起することもできます(いわゆる株主代表訴訟)。
      


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