ビジネス訴訟
答弁書の提出・被告側の対応(民事訴訟)
投稿日 : 2019年01月13日企業を当事者とする民事訴訟において訴状を受け取った被告側の対応について解説します。本稿では訴訟対応のために代理人弁護士を選任することを前提としています。
訴状を受け取ったら
訴状を受け取ったら内容を確認します。当事者たる被告においてまず把握しなければならないのは以下の事項です。
訴訟を提起した原告は誰か。請求を受ける被告は誰か。(訴状の冒頭又は別紙当事者目録に記載)
① 原告から何を請求されているのか。(訴状の「請求の趣旨」に記載)
② どのような理由で請求されているのか。(訴状の「請求の原因」に記載)
③ 請求を基礎付ける証拠として何が提出されているのか。
④ どこの裁判所に訴訟が提起されているのか。
⑤ 第一回期日はいつか。(呼出状に記載)
内容の把握と同時に、社内的には上席者や経営層への報告を行います。そして一刻も早く会社を代理して訴訟を追行する弁護士を選任します。
訴訟代理人たる弁護士の選任
弁護士の選任は訴訟の提起を受けた被告の初動対応として最優先すべき事項です。会社としては訴状に書かれている内容について社内調査を行って事実確認を行い、その上で弁護士に相談したいと考えるかも知れませんが、お勧めしません。訴訟代理人たる弁護士を選任し、事実確認前であっても訴状と証拠を精査してもらう。第一回期日に向けた準備を開始してもらい、会社側は何を準備するべきかについてアドバイスを求める。それが最も効率的です。
弁護士の選任にあたっては、誰を選任すべきかという問題と、どのような報酬アレンジにするかという問題があります。誰を選任すべきかについては、顧問弁護士がいて訴訟対応に慣れているのであればそのまま委任することが多いと思います。そうでない場合には知り合いから紹介を受ける、自ら探すなどする必要があります。第一回期日までは1か月程度しかない場合が多いので早めに動かなければなりません。
報酬アレンジとしてどのようなものがあるかについては、訴訟を提起すべきか否かの検討の記事にある「⑤ 弁護士費用や印紙代等」をご参照ください。
対応方針の検討
まずは訴訟に対する基本的な対応方針を検討します。大きく分けて以下が考えられます。
① 原告の請求を争い、請求棄却を目指して訴訟を追行する。
② 原告の請求を争わず、早期の解決を図る。
上記のうち、②の早期解決を図る場合には、第一回期日を待たずして原告側と連絡をとり、請求のとおりに支払い等をすることが考えられます。また、大筋で原告側の請求を認める代わりに一定の譲歩を引き出す和解を試みることも考えられます。いずれにしても訴訟で本格的に主張立証を行うことはせずに幕引きを図る方法です。
原告の請求を争う場合に行うべきこと
原告の請求を争い、請求棄却を目指して訴訟を追行する場合に行うべきことは以下のとおりです。
(1)事実関係の確認
原告の請求を争う場合には原告の主張する事実関係の確認です。訴状の中の「請求の原因」の中に請求を基礎付ける事実関係が記載されています。そこで主張されている事実関係が正しいものであるか、あるいは間違っているかをチェックします。この作業の結果は後で作成する答弁書において認否として記載することになります。
併せて、原告の事実主張にとらわれず、広く被告の側から見て事件全体がどのような経緯であったのかを確認します。これによって被告の立場から見た事実関係の流れを構成し、後で裁判所に提示することになる被告のストーリーの骨子とします。
上記の事実関係の確認を行うのは初期の段階では主として会社側となります。代理人弁護士が事実関係を知る会社の方から直接聞き取りを行うこともあります。
(2)重点的に反論すべき点(主要な争点)の検討
事実関係を概ね確認することができた段階で、訴訟において重点的に反論すべき点(主要な争点)を検討します。これには大きく分けて以下の2種類があります。
一つは原告の主張する事実のうち請求の要件となる事実を否認することです。請求の要件となる事実は請求原因事実と呼ばれ、例えば貸金返還請求であれば金銭の交付と返済合意が請求原因事実にあたります。原告の請求が裁判所に認容されるためには請求原因事実の全てが認定されなければなりません。その1つでも認定されないことがあれば請求は棄却されます。そのため、被告としては原告の主張する請求原因事実の1つないし複数を否認し、裁判所に認定されないように主張立証を行うことが考えられます。
もう一つは被告として抗弁を提出することです。抗弁とは、原告が主張する請求原因事実と両立し、かつ原告の請求権の発生を妨げる事実主張です。例えば、原告の貸金返還請求に対し、金銭の交付と返済合意を認めつつ、既に貸金は返済したと主張することです。また、原告の請求権は時効により消滅したと主張することも抗弁の例です。否認は原告の事実主張の一部ないし全部を争うものであるのに対し、抗弁は原告の事実主張に表れない新たな事実を主張することで請求の棄却を求める訴訟活動であるといえます。
他にも法律上の主張を争うなどの争い方もありますが、最も多いのは上記の2つではないかと思います。被告としては原告の主張に対し闇雲に争うのではなく、最も勝ち目がある争点を見極め、そこを重点的に主張立証するのが効果的です。
会社としては否認であるか抗弁であるかをあまり意識する必要はありません。「原告の主張する主要な事実の中で最もおかしいと感じること」「被告の立場からどうしても言いたいこと」を代理人弁護士に伝えれば足ります。また、そのような会社の主張を支える証拠を弁護士に提供します。弁護士は会社の考えを法的に整理し、証拠とも照らし合わせながら何を主要な争点とするべきかを検討することになります。
答弁書の作成
答弁書は代理人弁護士が作成します。会社としては答弁書の作成に必要な情報や資料を提供する形で弁護士の作業をサポートすることになります。以下では答弁書に記載すべき事項の概要をお示しします。なお、実務では答弁書に下記の(1)(2)のみを記載し、(3)(4)は答弁書の後に提出する準備書面において主張することもあります。第一回期日までに認否や主張を作成するのに時間が足りないことがあるためです。
(1)冒頭部分
答弁書の冒頭部分には、事件番号、事件名、当事者名、文書の標目(答弁書であること)、日付、提出先の裁判所、被告代理人に関する事項、被告代理人による記名・押印、を記載します。
(2)請求の趣旨に対する答弁
請求の趣旨に対する答弁とは、原告が訴状に記載した請求の趣旨に対し、被告としてどのような判決を求めるかを明らかにするものです。請求を争う場合には、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」という内容を記載することになります。
(3)請求の原因に対する認否
訴状の請求の原因に記載された原告の事実主張に対して認否をします。認否をする場合には具体的には以下のいずれかとします。
「認める」 原告の事実主張を認めること。
「否認する」 原告の事実主張を否定すること。
「不知」 原告の事実主張は知らないとすること。
「争う」 原告の事実評価や法的主張を争うこと。
例えば、原告が「被告は本件製品を原告に引き渡した。原告が受入検査を行ったところ本件商品には仕様と異なる不具合があった。」と主張しているのに対して、被告として「第1文は認める。第2文のうち、原告が受入検査を行ったことは不知、本件商品に不具合があることは否認する。」という具合です。
注意しなければならないのは、原告の事実主張を「認める」場合です。一旦事実を認めるとその事実について後から争うことは困難になります。特に、請求原因事実を構成する主要な事実を認めることは法律上「自白」として特別な効果が与えられ、裁判所は自白の対象となった事実をそのまま認定することになります。そのため、主要な事実の認否は慎重に行う必要があります。
(4)被告の主張
認否は、原告の主張する事実があり、それについて被告が認める認めないの話であったのに対し、被告の主張は原告の主張する事実にとらわれないで自由に主張することができます。一般的には、被告の立場から見た事件がどのようなものであるか(被告側のストーリー)を説明するとともに、否認の理由や抗弁など争点となるポイントに関する主張を述べることになります。裁判所に対して被告有利との心証を持ってもらうべく原告の請求・主張に理由がないことを説得的に述べていく必要があります。また、言いたいことを何でも主張するのではなく、勝負どころとなる争点を意識してメリハリのある主張を行うことが重要です。
その他の対応の検討
(1)本案前の主張
本案前の主張とは、訴訟に必要な要件を欠くことを指摘し、訴訟を却下に持ち込むための主張です。訴訟を適法に行うためには訴訟要件と呼ばれるいくつかの手続的な前提条件を満たす必要があります。その要件を欠く場合には請求に対する判断に入ることなく訴訟は不適法として却下されます。例えば、海外企業との契約においては紛争解決条項として仲裁合意がなされていることが多く、仲裁合意があれば訴訟は却下されます。
(2)求釈明
訴状に記載された原告の主張が不明瞭な場合、答弁書における認否や反論ができないことがあります。そのような場合、原告の主張を明確にするよう求めることができます。釈明を求める主体は手続的には裁判所ですが、通常は当事者の申立てを契機に行われます。
(3)反訴の検討
訴訟では原告の請求について審理が行われますが、逆に被告が原告に対して何らかの請求権を有している場合、反訴を提起することによって同じ訴訟手続き内で審理してもらうことができます。反訴は被告から原告に対する反対請求であり、原告に対する反撃として位置づけられるものです。反訴は常に認められるわけではなく、原告の請求の基礎となっている事実関係に関連するものである必要があります。
訴訟・裁判の手続きの流れ
(1)訴訟を提起すべきか否かの検討
↓
(2)訴訟の提起
↓
(3)答弁書の提出(←本稿の対象)
↓
(4)第一回期日
↓
(5)続行期日
↓
(6)証人尋問
↓
(7)和解の検討
↓
(8)判決
↓
(9)控訴
↓
(10)上告
上記の全体の流れや他の項目の説明については「訴訟の手続きの流れ」をご覧ください。
次は、「第一回期日」について解説します。
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サイト管理人/コラムの著者
弁護士 赤塚洋信
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