ビジネス訴訟
訴訟の提起・準備(民事訴訟)
投稿日 : 2019年01月13日企業を当事者とする民事訴訟の提起について解説します。本稿では訴訟対応のために代理人弁護士を選任することを前提としています。
どこの裁判所に提訴できるか(裁判管轄)
訴訟を提起する際にはどこの裁判所でも選択できるわけではありません。民事訴訟法の規定によって訴訟を提起できる裁判所が定められています(「裁判管轄」といいます)。特別な規定まで含めるとかなり詳細なルールとなっていますが、本稿では詳細には立ち入らず、重要な点のみを説明します。
(1)簡易裁判所か地方裁判所か
請求額が140万円以下の場合・・・簡易裁判所
上記以外の場合・・・地方裁判所
会社を当事者とする訴訟の場合、請求額は140万円を超えることが多いでしょうから通常は地方裁判所に訴訟を提起することになります。
(2)どこの場所にある裁判所か
①被告の住所地(会社の本店所在地)にある裁判所
②財産権上の訴えについての義務履行地にある裁判所
③当事者の合意によって定めた裁判所
上記のうち、訴訟を提起する側にとって重要なのは②の義務履行地です。財産権上の訴えについての義務履行地とは、例えば代金を支払うべき場所、貸金を返済すべき場所、目的物を引き渡すべき場所などがあり、これらはいずれも民法の規定により原則として債権者の住所地であるとされています。すなわち、財産権上の訴えについては訴訟を提起する者の住所地にある裁判所で訴訟を行うことができます。
財産権上の訴えであっても、③の合意には注意が必要です。これは契約書の条項等において特定の裁判所を管轄裁判所とする旨の合意(裁判管轄合意)をしている場合です。その中でも、特定の裁判所のみが管轄を有するとし、他の裁判所の管轄を排除する合意(専属的裁判管轄合意)をしている場合、当該合意をした裁判所に対してのみ訴訟を提起することができ、他の裁判所には訴訟を提起することができません。
上記のほか、不動産に関する訴えや、知的財産権に関する訴え、相手方が応訴した場合などについて特別の規定があります。
訴状の作成
(1)訴状の記載事項
訴訟の提起に向けての中核的な作業が訴状の作成です。訴状は弁護士が作成すべき文書です(本稿では弁護士に訴訟委任することを前提とします)。訴状の必要的な記載事項が何であるかについて会社があまり気にする必要はありませんが、特に重要な部分だけは知っておいた方が良いと思います。以下のとおりです。
① 当事者
② 請求の趣旨
③ 請求の原因
上記のうち、①の当事者は誰が原告であり誰が被告であるかを特定するものです。②の請求の趣旨は裁判所に対してどのような判決を求めるかを示すものです。例えば、「被告は原告に対し1000万円を支払え」、「被告は原告に対し別紙物件目録記載の建物を明け渡せ」などと記載します。③の請求の原因は原告の主張する法的構成を明らかにし、請求を基礎づける事実を具体的に主張するものです。法的構成の例としては、「売却済みの商品の代金として1000万円を支払うよう求める」というものであったり、「賃貸借契約の終了に基づき建物の明渡しを求める」というものであったりします。訴状の例としては、裁判所のウェブサイトに掲示されているものをご覧ください(こちらです)。これらを総合すると、訴状に記載すべき内容は、「誰に対して何を請求するのか。その根拠は何か。」ということになります。
(3)依頼者から弁護士に対する情報と資料の提供
弁護士は依頼者から受けた説明内容や依頼者から受領した資料に基づき、訴状の内容を検討します。当然ながら問題となる事案について情報を持っているのは依頼者です。依頼者からのインプットがあって初めて弁護士は訴状を作成することができます。どれだけ優秀な弁護士を雇っても、依頼者からの十分な情報提供がなければ説得力のある訴状は作成できません。もちろん弁護士の側にも依頼者から上手にヒアリングして事実関係を聞き出すスキルが求められます。訴状の作成は依頼者と弁護士の共同作業です。訴状のクオリティを含め、訴訟活動が充実したものになるか否かは依頼者と弁護士の両方の能力・努力にかかっているといえます。
弁護士に事案を説明する際には事実を可能な限り正確かつ具体的に伝えることが重要です。例えば、「当社はA社に仕様変更を依頼した」という事実の場合、弁護士が知りたい内容としては、「当社の購買部所属の山田一郎が、〇月〇日、A社の営業部所属の鈴木二郎氏にEメールを送信して仕様変更を依頼した。送信後すぐに山田が鈴木氏に電話をかけ、Eメールの受領を確認し仕様変更の了解を得た。」という具合です。これは、弁護士として事実関係を詳細に把握したいということと、訴状の作成においてもそのような精度で事実関係を記載する必要があるからです。
また、弁護士に事案を説明する際には自社にとって都合の良い事実のみならず、不利と思われる事実も全て隠さず伝える必要があります。不利な事実は事案の分析や相手方の反論を予測するために欠かせないものです。内容次第では法的な結論や対応方針にも影響します。不利な事実は弁護士相手であっても言いにくいと感じることがあるかも知れませんが、相手方から主張されて初めて弁護士が知ったということになると対応にも困りますし信頼関係にも響きます。
(4)書証が重要であること
訴訟を提起する際には訴状のほか、自社の主張を裏付ける証拠を提出します。その場合、重要になるのは書証、すなわち書面化された証拠です。例えば、契約の成立を立証するためには契約書や取引書類、当事者間のやりとりを立証するためには内容証明郵便やEメール、支払いの事実を証明するためには領収書や預金通帳、などが考えられます。
事実を立証するためには法廷で証言することも可能ですが、裁判においては書証の証拠価値が高いとされています。書証は動かしがたい証拠であり、記憶違いや主観によるブレがないからです。訴訟の事実認定において書証が果たす役割は大きく、勝敗を左右するカギとなります。そのため、会社としては弁護士に対して自社が持っている書証を余すところなく提供し、立証に役立ててもらう必要があります。
訴状の提出(訴訟の提起)
訴状が完成したら裁判所に提出します。通常は以下のものを提出等することになります。
項目 | 説明 |
訴状 | 原告の請求や主張を記載した書面。 |
証拠 | 原告の主張を裏付けるもの。 |
証拠説明書 | 証拠の作成者、日付、立証趣旨等を説明する書面。 |
委任状 | 弁護士に訴訟を委任する場合に必要。 |
登記事項証明書 | 法人が訴訟当事者となる場合に必要。 |
収入印紙 | 訴額に応じて訴状に収入印紙を貼付。 |
郵券 | 裁判所からの書類の送達に使用。 |
基本的には書類等の準備は弁護士が主体となって進めますが、依頼者の側の対応が求められるものとして委任状への押印があります(押印すべき委任状自体は弁護士が作成します)。また、印紙代や郵券代を負担する必要もあります。印紙代は例えば1000万円の訴訟を提起する場合で5万円、3000万円の訴訟を提起する場合で11万円です。郵券代は当事者の人数によって変わりますが数千円~1万円程度です。
訴状を裁判所に提出すると裁判所が訴状を審査し、不備がなければ訴状を受け付けてくれます。裁判所の審査はかなり細かく、裁判所から訴状の補正を求められることは珍しくありません。その場合、訴状を訂正する等の対応が必要になることがあります。
第一回期日の指定
訴状が正式に受け付けられると裁判所は原告(原告の代理人弁護士)の意見を聴いたうえで期日を指定します。通常は訴訟の提起から1か月くらい後の日付が指定されます。
相手方(被告)に対する訴状等の送達
裁判所が訴状等を相手方に送達します。送達されるのは、訴状・証拠・証拠説明書のそれぞれの副本、裁判所からの呼出状、答弁書に関する文書等です。
訴訟提起のポイント
訴訟を提起する原告は攻撃側です。原告は、誰を被告とするか、何を請求するか、いつ提訴するか、といった事項を自由に決めることができます。言わば戦う相手と戦場とタイミングを選ぶことができる立場にあるのであり、どのように訴訟を提起するのが自社にとって最も有利であるかを入念に検討すべきです。弁護士とじっくり協議してアドバイスを得るようにしてください。もちろん、訴訟提起を急がなければならない事情がある場合には、まずは訴訟提起を優先して後から主張を補充するということも考えられます。そのような事情がない場合には検討を尽くし、準備を万全にして訴訟を提起すべきです。
準備の中核となる作業が訴状の作成と証拠の準備です。しっかりした訴状と証拠を提出し、裁判官が訴状を読み終えたところで「原告勝訴」との心証を抱かせる。それが訴訟提起段階で目指すべきゴールです。
訴訟・裁判の手続きの流れ
(1)訴訟を提起すべきか否かの検討
↓
(2)訴訟の提起 (←本稿の対象)
↓
(3)答弁書の提出
↓
(4)第一回期日
↓
(5)続行期日
↓
(6)証人尋問
↓
(7)和解の検討
↓
(8)判決
↓
(9)控訴
↓
(10)上告
上記の全体の流れや他の項目の説明については「訴訟の手続きの流れ」をご覧ください。
次は、「答弁書の提出」について解説します。
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弁護士 赤塚洋信
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