ビジネス訴訟
和解の検討(民事訴訟)
投稿日 : 2019年01月13日企業を当事者とする民事訴訟における和解手続きについて解説します。
和解手続きの概要
和解とは当事者が互いに譲歩をして合意により紛争をやめることをいいます。訴訟において和解が成立する場合には係属中の訴訟手続きは終了することになります。
訴訟が係属している際の和解には裁判上の和解と裁判外の和解があります。前者は訴訟手続きにおいて裁判所の関与の下で和解をすることであり、後者は訴訟外で当事者の私的な合意として和解契約をすることです。本稿では裁判上の和解を念頭に説明します。
平成29年度の司法統計によれば、第一審の終結した事件14万5971件のうち判決に至った事件は5万8640件(約40%)、和解で終わった事件は5万3032件(約36%)となっています。これは事件の種類を問わない統計ですが、企業間訴訟ではより多くの割合の事件が和解により終了しているというのが実感です。
和解の法的効力
訴訟上の和解が成立すると訴訟手続きは終了します。また、訴訟上の和解は確定判決と同一の効力を有するとされています。そのため、和解条項の中で定められた内容を相手方が任意に履行しない場合には強制執行の手続きを通じて実現することができます。
和解のメリット
(1)紛争の早期解決
和解により訴訟は終了します。また、上訴される可能性もなくなります。このように、和解によって紛争を早期に解決することができます。時間報酬制で弁護士費用を支払っている場合、紛争の早期解決は費用の節減にもなります。
(2)一定の成果を確保できる(敗訴リスクを回避)
訴訟ではどのような判決が下されるかは分かりません。勝訴する可能性もあれば敗訴するリスクもあります。この点、和解をすることで原告は一定程度請求を認めてもらうことができ、被告としても支払額の減額や分割払いを認めてもらうことなどが期待できます。このように和解は当事者双方にとって敗訴リスクを回避し、一定の成果を確保できるメリットがあります。
(3)任意の履行を期待できる
和解は両当事者がその内容に合意することで成立するものです。それぞれ和解内容に対して満足・不満足はあるでしょうが、合意したものである以上、相手方が和解内容を任意に履行してくれることが期待できます。そのため、判決内容を履行しない当事者に対して強制執行をするような手間が省けます。
(4)柔軟な解決方法
判決は訴訟で請求されている事項についてのみ判断することになりますが、和解ではそのような制約はなく、訴訟で請求されていない事項についても和解の内容として取り決めることができます。例えば、和解金を長期分割で支払うにあたり第三者を保証人に付けることなどです。
和解のデメリット
(1)一定の譲歩をしなければならないこと
和解をするためには相手方に一定の譲歩をしなければなりません。譲歩の程度は大小様々ですが、特に自社の側が強く和解を希望している場合には、相手方に和解に同意してもらうため自社にとって不利な和解条件となりがちです。
(2)より有利な内容の判決を得る可能性を失うこと
和解をすることにより判決を得ることができなくなります。仮に判決を得ていた場合には和解条件よりも有利な内容であった可能性もありますが、和解をすることでそのような可能性を放棄することになります。
(3)和解内容の妥当性が明らかでないこと(公権的判断ではないこと)
和解は当事者が合意によって行うものなのでその和解条件が妥当なものであるかは必ずしも明らかではありません。この点、判決であれば裁判所が下した公権的判断としてその正当性や妥当性を説明しやすいといえます。
和解のタイミング
和解は訴訟のどの段階でも行うことができます。実務上は争点及び証拠の整理が終わったタイミング、又は、証人尋問が終わったタイミングで裁判所から和解の打診がなされることが多いといえます。また、当事者も和解を希望する場合には裁判所に和解の意向を伝えることがあります。裁判所が適当と認めれば和解の協議をアレンジしてくれます。
裁判所は和解による解決を歓迎している
一般に裁判所は当事者が和解してくれることを歓迎します。和解は両当事者が合意した内容で解決を図るものであり、判決によって強制的に権利義務関係を確定させるよりもより柔軟で優れていると考えられるからです。さらに、裁判所が和解を歓迎する最大の理由は、和解により事件が解決すれば判決を書く必要がないという点にあると思われます(判決を書くのは多大な労力を要するからです)。
和解協議の進め方
(1)場所、方法
裁判上の和解について協議する場合、協議は訴訟の期日において行われます。和解の協議はその性質上、公開の法廷での手続きに馴染まないため、非公開の会議室において行われるのが一般的です。
和解の協議においては、多くの場合、裁判官がそれぞれの当事者と交互に意見交換をする方式がとられます。例えば、最初に原告側から和解の意向や条件について話を聞き、次いで被告側からも同じく話を聞き、これを繰り返す、という方法です。このような方法は相手方が在席しないので当事者が裁判官に対して率直に意見を言いやすいというメリットがあります。
(2)心証開示
和解の協議をする段階にもよりますが、裁判官から事件に関する心証の開示がなされることがあります。特に証人尋問が終わった後になされる心証開示はその内容がそのまま判決となる可能性が高く、和解を検討するにあたって最も重要な考慮要素といえます。特に、自らに不利な心証を開示された場合には、敗訴するよりも和解によって相手方から一定の譲歩を引き出す方が良いケースが多いと思われます。そのような場合は判決を避け、和解による解決を目指すべきこととなります。
(3)和解条項
和解の条件が合意できればその内容を和解条項として文書化します。和解条項の内容として定めるべきものとしては、例えば以下の内容です。
① 当事者が履行すべき義務の内容
② 義務の具体的な履行の方法
③ (分割払いの場合)期限の利益喪失
④ 遅延損害金
⑤ 清算条項
和解は判決とは異なり当事者の合意に基づくものなので、基本的には当事者の任意の履行が期待されているものですが、相手方が和解条件に従った履行をしない可能性もあります(例えば、和解金を長期に亘る分割払いで支払う場合など)。そのような場合に備え、和解条項は強制執行が可能な文言としておく必要があります。強制執行が可能な文言であれば、相手方が履行を怠った場合に強制的に和解内容を実現することができます。強制執行が可能な文言とするのは基本的に代理人弁護士の役割です。
(4)和解に応じるかはあくまでも任意
当然のことですが、和解に応じるか否かは任意です。納得できない条件で和解をする義務はありません。上に述べたメリット・デメリットを比較考慮し、また、裁判所の心証開示の内容を踏まえて判断すれば良いものです。
訴訟・裁判の手続きの流れ
(1)訴訟を提起すべきか否かの検討
↓
(2)訴訟の提起
↓
(3)答弁書の提出
↓
(4)第一回期日
↓
(5)続行期日
↓
(6)証人尋問
↓
(7)和解の検討(←本稿の対象)
↓
(8)判決
↓
(9)控訴
↓
(10)上告
上記の全体の流れや他の項目の説明については「訴訟の手続きの流れ」をご覧ください。
次は、「判決」について解説します。
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