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会社法

役員報酬を決定・変更するための手続き

投稿日 : 2018年05月15日

役員報酬の決定(決め方)や役員報酬の変更に関する会社法上の規定や判例について解説します。本稿で解説する役員報酬は取締役の報酬を意味します。なお、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は本稿の対象ではありません。

役員の報酬に関する会社法の規定

役員の報酬に関する会社法の規定は以下のとおりです。

第361条(取締役の報酬等)
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

2 (略)
3 (略)
4 第一項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
(以下略)

役員報酬の決定には定款の規定又は株主総会の決議が必要

上記の会社法の規定にあるとおり、役員報酬の決定には定款の規定があればそれに従い、定款の規定がなければ株主総会の決議によって定めるものとされています。役員報酬を取締役自身で決めることができるとすると不当に高額な報酬を受け取るおそれがあり、株主の利益を害することになります。そこで、そのようないわゆる「お手盛り」の弊害を防止するために、役員報酬は定款又は株主総会の決議によって定めるものとしたと解されています。

実務上は定款に役員報酬が規定されることはまれであり、殆どは株主総会の決議によって定められます。

株主総会において役員報酬を決議する場合、株主総会の招集通知に報酬に係る議案を記載しなければならないほか、会社法施行規則で定める各事項を記載する必要があります。また、役員報酬のうち金額が確定していないものや金銭でないものを支給することを決議する場合には、株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければなりません。

役員報酬として規制の対象になるもの

役員報酬として会社法の規制の対象となるものは、「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」(「報酬等」と定義されます)です。

(1)月額報酬、年額報酬

金額が定まっている月額の報酬や年額の報酬は規制の対象となります。

(2)役員賞与

役員賞与も規制の対象となります。

(3)業績連動報酬

業績連動報酬は「報酬等のうち額が確定していないもの」(上記の会社法の規定の第2号)として規制の対象となります。

(4)退職慰労金

退任する取締役に対して支払われる退職慰労金も、在職中の職務執行の対価である限り規制の対象となる報酬等に該当します。退職慰労金についてはこちらの記事(役員の退職慰労金を支給する手続き)をご覧ください。

(5)使用人兼務取締役の報酬

取締役が使用人を兼務している場合、当該取締役は①取締役としての職務執行の対価としての役員報酬のほか、②使用人としての職務の対価である給与を受け取ることになります。このうち、前者は規制の対象となりますが、後者の給与部分は規制の対象とはなりません。もっとも、①と②の区別については実態に沿ったものとしなければなりません。

(6)ストックオプション(新株予約権)

主としてインセンティブを高める目的で取締役に対して付与されるストックオプションは職務執行の対価であり、かつ財産上の利益であるといえるので規制の対象となります。

役員報酬として定める内容

(1)金額が確定しているもの

役員報酬のうち金額が確定しているものについては金額を定めます。この場合、報酬の総額の上限のみを定め、個人別の金額の決定を取締役会の決定に委ねることも許容されています。このことについては次項で説明します。

(2)金額が確定していないもの

役員報酬のうち金額が確定していないものについては具体的な算定方法を定めます。業績に連動した報酬を定める場合がこれに該当します。その場合、どのような指標に基づき、どのような計算を行って算定するかを定めることになります。

(3)金銭でないもの

役員報酬のうち金銭でないものについてはその具体的な内容を定めます。例えば、会社が家賃を負担する社宅などが非金銭報酬にあたります。社用車は社会通念上相当なものである限り報酬には当たらないと解されます。

役員報酬の具体的な決定を取締役会に委任する方法

取締役の個人別の報酬額を株主総会で決定することはせず、総額の上限のみを定めることも可能です。これは個人別の報酬額が明らかになることを避けるためです。その上で、株主総会の決議によって、個人への配分を取締役会の決定に委ねます。このような取扱いとすることは判例によっても許容されており、多くの会社が採用しています。

株主総会の決議による委任を受けた取締役会においては、総額の上限の枠内において各取締役への報酬の配分を決定します。さらに、取締役会の決議によって各取締役への報酬の配分を代表取締役に一任することも可能です。(もっとも、そのように代表取締役に一任してしまうと、代表取締役の権限が強くなり過ぎ、代表取締役に対する他の取締役による監督ができなくなるとの理由から、そのような報酬配分の方法は認められないとする見解もあります。)

一度株主総会で決定すれば翌年以降も効力を有する

株主総会で一度報酬の上限額を決議した場合、その上限額の決議の効力は翌年以降も効力を有すると解されています。そのため、上限額に変更がない限り、毎年株主総会で決議を行う必要はないということになります。

定款の定め又は株主総会の決議がなければ報酬請求権は発生しない

役員報酬についての定款の定め又は株主総会の決議があって初めて取締役に報酬請求権が発生します。そのため、これらがない場合には取締役は会社に対して役員報酬を請求することはできません。株主総会の決議によって取締役会に具体的な配分を委任した場合には、原則として取締役会の決議があって初めて役員報酬の請求権が発生します。

会社と取締役との間で任用契約を締結しても、上記の手続きを経なければ取締役は会社に対して役員報酬を請求することはできません。もっとも、株主総会決議がない場合であっても、役員報酬を支給することについて株主全員の同意があるときには、例外的に報酬請求権が発生すると解されます。

また、株主総会の決議がないまま役員報酬が支払われた場合において、事後に株主総会の決議がなされたときには、当該役員報酬の支払は遡って有効なものとなります。

役員報酬の減額には取締役の同意が必要

定款の定め又は株主総会の決議によって取締役に報酬請求権が発生した場合、当該取締役の同意がない限り、会社は報酬額を変更することはできません。報酬請求権は会社と取締役との間の契約内容となるためです。

事業報告における開示

公開会社(株式の譲渡制限がない会社)においては、事業報告において対象となる事業年度における役員報酬を記載する必要があります。この役員報酬は総額を記載すれば足ります。ただし、社外取締役に関する役員報酬は別枠で記載しなければなりません。

事業報告のほか、上場会社においては金融商品取引法に基づいて役員報酬を開示することが求められます。
        


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