債権回収
不払いや契約違反を理由に刑事責任を問うことの可否(企業間取引)
投稿日 : 2019年06月30日企業間取引において代金の不払いや契約違反を理由に刑事責任を問うことの可否について解説します。
代金の不払いや契約違反があったというだけでは刑事責任を問うことはできない
単なる代金の不払いや契約違反(以下では単に「契約違反」といいます)を理由として刑事責任を問うことはできません。したがって、契約違反を理由に刑事告訴・告発をすることはできません。(より正確に言えば、そのような告訴・告発をしたとしても捜査機関が動いてくれることはありません。)
ただし、契約に違反した当事者が最初から契約を守るつもりがなく、商品やお金を騙し取ることが目的であったのであれば詐欺罪に該当する可能性があります。その場合、被害を受けた側が告訴・告発をすることで捜査機関が動いてくれる可能性があります。
民事責任と刑事責任の違い
法律や契約に違反した場合に負う法的な責任には民事上の責任(民事責任)と刑事上の責任(刑事責任)があります。違いは以下のとおりです。
(1)民事責任
契約違反があった場合に違反した当事者が負うのは民事責任です。民事責任とは他人の権利・利益を侵害した場合に負う私人間の責任を意味します。
契約違反に関して言えば、違反をした当事者は相手方に対し債務不履行の責任を負い、相手方に生じた損害を賠償しなければなりません。また、契約が解除される原因ともなります。違反当事者が損害賠償をしない場合、損害を受けた当事者がとり得る法的手段としては、自らを原告、違反当事者を被告として民事訴訟を提起することになります。民事訴訟はあくまでも私人が自らの責任と費用で行うものであって、警察などの国家機関が手助けしてくれることはありません。また、民事訴訟の判決は金銭の支払い等を命じる内容となります。
(2)刑事責任
これに対し、刑事責任とは刑罰法規に違反することによって生じる責任です。刑事責任を負うこととなる犯罪としては例えば、暴行・傷害・殺人などの生命・身体に対する罪、窃盗・強盗・詐欺などの財産に対する罪、放火などの公共の安全に対する罪、公務執行妨害などの国家作用に対する罪です。
刑事責任が生じる根拠となる刑罰法規は主要なものが刑法に定められているほか、個別の法律においても法令上の義務違反に対する罰則として定められていることがあります。刑罰法規に違反する行為をした場合、捜査機関によって捜査が行われ、その過程で被疑者(いわゆる容疑者)は逮捕・勾留される可能性があります。捜査の結果、検察官が必要と判断すれば起訴されて刑事裁判を行うことになります。
契約違反は詐欺等の犯罪に該当するか
契約違反があった場合、違反していない側の当事者が何らかの経済的損失を被ることになります。その意味では窃盗や詐欺などと同様、被害を受けた側からすれば財産を奪われたのと同じ結果となります。しかし、そうであっても契約違反はあくまでも民事上の話であり、財産に対する罪に規定された個別の刑罰法規に触れない限りは犯罪とはなりません。
一例を挙げると、商品の売買において、商品の引渡し後、買主が資金不足で支払いができなくなったとします。支払いを受けられない売主としては「騙された」、「詐欺だ」と感じることがあるでしょうが、詐欺罪に該当するためには、「人を欺いて財物を交付させた」(刑法246条1項)といえなければなりません。先の例では、買主が最初から代金を支払う意思がなく商品の引渡しを受けたのであれば詐欺となる可能性がありますが、支払うつもりだったのに結果的に資金不足で支払いができないという場合には詐欺罪は成立しません。
契約違反を理由とする解除や損害賠償
上記のとおり、単なる契約違反を理由として刑事責任を問うことはできないものの、契約違反があった以上、違反をしていない当事者は契約を解除したり、損害賠償請求をすることができます。
契約の解除についてはこちらの記事(契約を解除する方法)、損害賠償請求についてはこちらの記事(契約違反に基づく損害賠償)をご参照ください。
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