会社法
特別利害関係を有する取締役と取締役会決議
投稿日 : 2022年03月30日会社の取締役が取締役会の決議において特別利害関係を有する場合について解説します。
取締役会の決議
取締役会の決議は、原則として、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うとされています。要するに取締役の過半数が出席することで取締役会が成立し、その出席した取締役の多数決で決議を行うこととなります。しかし、特別利害関係を有する取締役は議決に加わることができません。関連する条文は以下のとおりです。
(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
特別利害関係とは
取締役の特別利害関係とは、取締役が会社に対する忠実義務を誠実に履行することが定型的に困難と認められる個人的利害関係ないしは会社外の利害関係をいうと解されています。
上記のとおり、特別利害関係を有する取締役は取締役会において議決に加わることができません。これは、取締役と会社との間の利害対立を事前に防止するための規制です。
特別利害関係の例
特別利害関係があるとされるのは例えば以下のようなケースです。
(1)譲渡制限株式の譲渡承認を請求する取締役
(2)第三者割当増資の引受人となる取締役
(3)競業取引や利益相反取引の承認を請求する取締役
(4)代表取締役の解職における当該代表取締役
(5)会社に対する損害賠償責任の一部免除を受ける取締役
(1)については、取締役会設置会社において譲渡制限株式の譲渡を承認するのは取締役会であるところ、譲渡承認の決議において譲渡の当事者(譲渡人又は譲受人)となる取締役は特別利害関係を有することとなります。
(2)については、取締役会設置会社において第三者割当増資の決定を行うのは取締役会であるところ、その決議において引受人となる取締役は特別利害関係を有することとなります。
(3)については、取締役会設置会社において取締役が競業取引や利益相反取引を行うことを承認するのは取締役会であるところ、取引承認の決議において競業取引や利益相反取引を行おうとする取締役は特別利害関係を有することとなります。
(4)については、取締役会設置会社において代表取締役を選定・解職するのは取締役会であるところ、解職の決議においてその対象となる代表取締役は特別利害関係を有することとなります。この点については特別利害関係を有しないと解する立場もありますが、判例は特別利害関係を有するとしています。
(5)については、取締役会設置会社は定款に定めがある場合には取締役の会社に対する損害賠償責任を一部免除することができるところ、責任免除の決議において免除を受ける取締役は特別利害関係を有することとなります。
特別利害関係に該当しない例
上記の(4)では代表取締役の解職について述べましたが、代表取締役を選定する場合にはその候補者となる取締役は特別利害関係を有しないとされています。
また、取締役に対する報酬の支給額に関し、株主総会において支給額の上限が定められ、取締役会において各取締役に対する具体的な支給額を決定する場合、支給を受ける取締役は特別利害関係を有しないとされています。
「議決に加わることができない」とは
特別利害関係を有する取締役は取締役会の議決に加わることができません。この「議決に加わることができない」とは、文字どおり決議において議決権を行使することができないというのみならず、取締役会の定足数の計算にも含まれないこととなります。また、取締役会において議長を務めることもできません。
特別利害関係を有する取締役は取締役会において退席を求められた場合、それに従う必要があります。他方で、例えば利益相反取引の内容の説明を求めるなどの必要がある場合、取締役会の判断で特別利害関係を有する取締役の出席を認めることは可能です。
会社法の規定に反して特別利害関係を有する取締役が議決に加わったり、議長を務めるなどした場合、それによって成立した決議が無効となるおそれがあります。ただし、前者に関しては特別利害関係を有する取締役以外の取締役のみで過半数の賛成を得ていた場合には決議は無効にならないと解されます。
議事録への記録の残し方
取締役会の決議は議事録として記録に残す必要があります。特別利害関係を有する取締役が関係する議案については、当該取締役が議決に加わらなかったことを明確にするため、「議長より議場に賛否を諮ったところ、出席取締役全員異議なくこれを承認可決した。なお、取締役●●は特別の利害関係を有するため、本議案の決議に参加しなかった。」などと記載します。
コメント
取締役が株式を譲渡したり、第三者割当増資を引き受けることは実務では多く見られ、特別利害関係が問題になるケースは珍しいものではありません。取締役会の決議を有効に行うためにも特別利害関係の有無について注意する必要があります。
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