会社法
譲渡制限株式を譲渡する手続き
投稿日 : 2021年07月20日譲渡制限の付された株式を譲渡する手続きについて解説します。本稿では株券が発行されてない株式(株券不発行会社の株式)を譲渡するケースを対象とします。
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、譲渡による株式の取得について会社の承認を要するとされている株式をいいます。会社が譲渡制限を設定するのは会社にとって望ましくない者が株主になるのを防止するためです。
上場していない会社のほとんどは株式にこの譲渡制限を設定しています。この譲渡制限が付された株式を譲渡しようとする場合には本稿で説明する手続きをとる必要があります。譲渡制限株式を譲渡する手続きは以下のとおりです。
譲渡承認の手続き
譲渡承認とは、株式の譲渡が行われる場合に会社(当該株式を発行する会社)が当該譲渡を承認するか否かを判断する手続きです。この手続きは、譲渡当事者が会社に対して譲渡の承認を請求し、会社がそれを承認するか否かを決定するというプロセスとなっています。実際には譲渡当事者は会社の役員等の関係者であることが多いので譲渡について事前に会社との間で話がついている場合がほとんどです。事前に話がついている場合、譲渡承認の手続きは問題なく行われることになります。
(1) 譲渡当事者による承認請求
譲渡承認の手続きにあたっては、まず譲渡当事者が会社に対して株式譲渡の承認を請求します。この請求にあたっては、①譲渡の対象となる株式の数、②株式を譲り受ける者の氏名又は名称、③会社が承認をしない場合に会社又は指定買取人が買い取ることを請求するときにはその旨、を明らかにして承認を求める必要があります。譲渡承認の請求は株式を譲り渡す株主からでも株式の譲受人のいずれからでも行うことができます。譲受人が行う場合には原則として譲渡人の株主と共同で行う必要があります。
(2) 会社による承認の決定
譲渡承認を行うのは取締役会設置会社にあっては取締役会、それ以外の会社にあっては株主総会です。定款でそれ以外の機関を定めることも可能で、例えば代表取締役が承認する権限を有していることもあります。
譲渡承認の決議は取締役会にあっては出席取締役の過半数による決議、株主総会にあっては普通決議で行います。
会社の取締役が譲渡当事者である場合であって、取締役会で譲渡承認を行うときには、当該取締役は特別利害関係を有することとなります。特別利害関係を有する取締役は議決に加わることはできません。
前述のとおり、譲渡については事前に譲渡当事者と会社との間で話がついている場合がほとんどなので、譲渡承認がなされないケースは稀であると思われます。仮に何らかの事情で譲渡承認がなされないという場合には、会社は自ら又は指定買取人をして対象となる株式を買い取る必要が生じます(株主から上記(1)③の請求がなされている場合)。
(3) 決定の通知
会社による承認の決定については承認請求をした譲渡当事者に決定の内容を通知する必要があります。会社が譲渡承認の請求があった日から2週間以内に通知をしなかった場合、承認をしたとみなされるので注意が必要です。
株式譲渡契約の締結
既存株主と譲受人との間で株式の譲渡に関する契約を締結します。株式譲渡契約では対象となる株式の種類、数、譲渡価格等を合意します。さらに、売主となる既存株主が会社の支配株主である場合、会社に関する様々な事項(例えば会社の財務状況や法的問題に関する事項)を表明保証するのが一般的です。
【株式譲渡契約の条項例】
① 株式譲渡の合意
② 譲渡価格
③ クロージング、前提条件
④ 表明保証
⑤ クロージングまでの誓約事項
⑥ 補償・損害賠償
⑦ 解除
⑧ その他一般条項
実務では譲渡承認手続きの前に株式譲渡契約を締結することが行われています。株式譲渡契約において譲渡承認がなされることを譲渡実行の前提条件としておき、譲渡承認がなされた後に実際の譲渡(クロージング)を行う旨を合意します。
株主名簿の書換請求
株主名簿は会社が作成・管理している株主の名簿です。株主と会社の関係においてはこの株主名簿を基準に誰が株主であるかが決まります。
譲渡当事者間で株式譲渡契約を締結しただけでは会社に対して株式の譲受人が新たな株主となったことを主張することができません。また、会社による譲渡承認がなされていても、そのことで自動的に株主名簿が変更されるわけではありません。譲受人が会社に対して自らが株主であることを主張できるようになるためには会社が管理する株主名簿を書き換えてもらう必要があります。
この株主名簿の書換請求は原則として譲渡人と譲受人とが共同して行う必要があります。具体的には譲渡人と譲受人とが連名で株主名簿書換請求書を会社に提出する方法で行います。書換請求を受けた会社は譲渡承認がなされていることを前提に株主名簿の書換を行います。
株主名簿の写し、株主名簿記載事項の証明
株主名簿の書換後、譲受人は会社に対し、自らについて株主名簿の内容を記載した書面の交付を請求することができます。この証明書には、①株主の氏名又は名称及び住所、②株主の有する株式の数、③株主が株式を取得した日、などが記載されます。株券がなくともこの証明書があれば株主であることを証明することができます。
実務ではこの証明書に代えて、株主名簿の写しに「原本に相違ない」旨の文言を付して代表取締役が押印した書面を交付することがあります。このような株主名簿の写しの場合、全ての株主の情報が記載されるので上記の証明書よりも情報量が多いといえます。
コメント
上記のとおり譲渡制限株式の譲渡にあたっては会社法上必要とされる手続きを経る必要があります。株式の譲受人の立場からすると適式でない株式譲渡は会社に対抗できないリスクが生じますし、会社の立場からしても株式の権利関係は基本的かつ重要な事項であり明確にしておく必要があります。必要に応じ専門家に相談されることをお勧めします。
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