契約書
契約書の甲と乙(注意点と他の書き方)
投稿日 : 2018年02月03日契約書に記載する当事者の表記(甲・乙等)について解説します。
当事者の表記に法律上のルールはない
契約書において当事者をどのように表記するかについては法律上のルールはありません。また、実務上も契約書の種類に応じて当事者の表記は様々です。
当事者を甲・乙と表記する場合の注意点
当事者の一方を甲とし、他方を乙とする契約書を多く目にします。甲・乙と表記するのは文章を短くできるという点では有益ですが、常にどちらが甲でどちらが乙であったかを意識しなければなりません。甲・乙を使う場合のありがちなミスとして、甲と乙を間違えて書いてしまう、というものがあります。これは単純かつ恥ずかしい間違いで、しかも契約の内容にも影響を与えうるものなのですが本当によくあります。弁護士が作成する場合ですらこのようなミスが生じます。
それと、これは個人の印象の問題であり普遍的ではないかも知れませんが、私には甲・乙という表記は古臭く見えてしまいます。現代のビジネス契約において用いるには少し抵抗があり、他により適切な表記があればそちらを使う方が見た目にもスマートであると思います。そのため、私は自分で契約書を作成する場合には意識的に甲・乙という表記を避け、なるべく使わないようにしています。
(なお、仮に甲・乙を使う場合、一般的な傾向として甲を上位の当事者、乙を下位の当事者と見る傾向があるようです。甲・乙を使う場合にはそのように受け止められる可能性があることに留意してどちらを甲とするかを考えるのが安全といえます。)
契約書ごとに適切な表記とする
甲・乙のような記号的な表現を使うよりも、例えば売買契約であれば「売主」・「買主」とし、金銭消費貸借契約では「貸主」・「借主」とするのが分かりやすいといえます。このように、契約書の類型に合わせた表記とする方が読んでいて理解しやすく、誤記の防止にもなります。
(1)秘密保持契約
情報を開示する当事者を「開示当事者」とし、情報を受領する当事者を「受領当事者」とします。当事者の双方がそれぞれ情報を開示し合う場合、いずれの当事者も「開示当事者」であり、かつ「受領当事者」となります。その場合、当事者を「開示当事者」又は「受領当事者」の一方に固定することはできませんが、各条項の内容として「開示当事者」や「受領当事者」の権利義務という形で定めを置くことで両当事者に適用されるものとなります。例えば、「受領当事者」が守秘義務や目的外利用の禁止義務を負うと規定すれば、いずれの当事者であっても情報を受領していればかかる義務を負うことになります。
(2)取引基本契約
取引基本契約書の対象となる取引は様々ですが、典型的なものは何らかの製品等の売買です。そのため、当事者を「売主」・「買主」と表記するのに適したケースが多いと思われます。他方で、サービス提供に関する基本契約の場合、業務委託に準じて「委託者」・「受託者」としたり、「発注者」・「サービス提供者」とすることも考えられます。
(2)業務委託契約
業務委託契約では「委託者」・「受託者」とすることで良いと思います。
(3)金銭消費貸借契約(融資契約書)
金銭消費貸借契約(融資契約書)では「貸主」・「借主」とすることで良いと思います。
(4)リース契約書
多くはリース業者が作成するので一般の事業会社が作成することはほぼないはずです。リース業者が作成するひな形では甲・乙という表記のほか、「賃貸人」・「賃借人」という表記が用いられているようです。
(5)売買契約書(譲渡契約書)
売買契約書(譲渡契約書)では「売主」・「買主」という表記のほか、「譲渡人」・「譲受人」という表記でも良いと思います。
(6)供給契約書(購買契約書)
供給契約書(購買契約書)では「売主」・「買主」とすることで良いと思います。「発注者」・「サプライヤー」とすることも考えられます。
(7)賃貸借契約書
賃貸借契約書では「賃貸人」・「賃借人」とするほか、「貸主」・「借主」とすることでも良いと思います。事業用物件では「オーナー」・「テナント」とすることも考えられます。
(8)工事請負契約書
工事請負契約書では「発注者」・「受注者」とすることで良いと思います。「受注者」の代わりに「請負人」、「施工業者」、「工事業者」などとすることも考えられます。
(9)ラインセンス契約
ラインセンス契約では「ライセンサー」・「ライセンシー」とすることで良いと思います。「ライセンサー」の代わりに権利の内容に合わせて「特許権者」、「著作権者」、「商標権者」とすることも考えられます。
(10)代理店契約(販売店契約)
代理店契約(販売店契約)では、製品を供給する当事者を「売主」、「サプライヤー」、「メーカー」などとし、製品を購入して再販売する当事者(あるいは販売の仲介をする当事者)を「買主」、「販売店」、「代理店」などとします。
(11)システム開発委託契約書
システム開発委託契約書では「委託者」・「受託者」とするほか、「ベンダー」・「ユーザー」とすることも考えられます。
修正を予定していない雛形や約款
修正を予定していない雛形や約款においては、自社のことを「当社」と表記し、相手方の当事者をその内容に合わせて「利用者」、「加盟店」、「サプライヤー」などとすることもあります。
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