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契約書

契約書を作成・チェックする場合の注意点

投稿日 : 2018年10月13日

契約書に潜むリスク

契約書は当事者間の法的な権利義務を定める重要な文書です。しかし、ビジネスの現場においては、適切に契約書を作成・チェックし、取引の実情に応じたものとしていく作業は必ずしも十分に行われていないと思います。取引の実情に適さない契約書を作ってしまうといざという時に役に立ちません。また、貴社の意向を反映していない契約書はむしろ貴社の法的リスクを高めることにもなりかねません。

私がこれまでに代理人として関与した訴訟や紛争の中には、契約書の解釈や有効性が問題となった事案が少なくありません。特に印象に残っているのは、長文の契約書のあるページに記載された一文の解釈をめぐって訴訟に発展した事案です。億単位の損害賠償請求がなされる大型の訴訟でした。原告と被告どちらの当事者も徹底的に争い、最終的に解決に至るまでに何年もかかりました。その事案で問題となった契約書の作成には私は関与していませんでしたが、契約書の重要性と怖さをあらためて再確認させられました。

不備のある契約書は人の健康に例えると血管の病気に似ているかも知れません。日頃の生活習慣に問題があると、血管が脆くなりコブのように膨らんでしまう症状があります。自覚症状はなく、気付かないうちにコブが肥大し、ある日突然破裂して命に関わる危険が生じます。これと同じように、会社が法務に無頓着で契約書のチェックを疎かにすると、不備のある契約を締結してしまうことがあります。ビジネスが円滑に進んでいるうちは不備には気付かず問題も起こりません。しかし、そのような契約書でも何とかなったというのは運が良かったに過ぎません。一度予期せぬ事態が起こると契約に潜んでいたリスクが顕在化し、経営を揺るがす深刻な問題に発展するおそれがあるのです。

契約の不備やリスクを排除するためには締結する前にしっかりとチェックをする必要があります。以下では、契約を締結するに際して会社が注意すべき点や陥りがちな失敗例をいくつかお示しします。

雛形を使うことに関する注意点

(1)取引に適合しない雛形を使ってしまう

雛形は契約書の作成に係る時間を大幅に短縮できる便利なものですが、雛形を使う場合には取引の種類・内容に合った適切なものを選ぶ必要があります。自社が行おうとしている取引にマッチしない雛形を使ってしまうと、いざというときに役に立ちません。例えば、製造委託契約なのに単純な売買を前提とした取引基本契約を使ってしまうと、図面の知財に関する条項や対象製品の他社への販売禁止などの条項が欠けているおそれがあります。

契約には様々なタイプがあり、かつ、メジャーな類型の契約については数多くの雛形があります。その中から適切なものを選ぶのには相応の目利きの力が必要です。自社の取引に適合しているか分からない、あるいは自信がないままに雛形を使うことはリスクを伴うことにご注意ください。

(2)相手方有利の雛形を使ってしまう

雛型には中立的なものばかりでなく一方当事者が有利となるように作成されているものもあります。雛形の選択において誤って相手方有利のフォームを使ってしまうことは避けなければなりません。例えば、売買契約書において売主は目的物に不具合がないこと等の責任を負わないとされている雛形がありますが、自社が買主として売主に責任追及する権利を留保したいときにはそのような雛形を使うべきではありません。

相手方の提示した契約書をチェックする場合の注意点

(1)相手方有利な契約内容に気付かず受け入れてしまう

相手方の提示した契約書には当然ながら相手方にとって有利な条項が多く含まれています。それに気付かずに内容を受け入れ、契約を締結してしまうと何かあったときに貴社が思わぬ損失・責任を被ることになりかねません。相手方の提示した契約書は鵜呑みにせず、貴社のリスク回避の観点から適切な修正を加えることが必要です。そのためには一つ一つの条項や文言を丁寧に精査する作業が欠かせません。

(2)貴社の立場から当然あるべき内容が含まれていない

相手方の提示した契約書は相手方が規定したい内容は含まれていますが、貴社が規定したい内容は欠けていることがあります。相手方が意図的に入れてこないということもあるはずです。貴社としてはそのような欠けている内容を補充する必要があります。もっとも、契約書をチェックする際には既に書いてあることに目が行きがちであり、欠けている内容には気付かないことも多いと思います。欠けている内容を見つけるためには、その契約において貴社にどのようなリスクがあるのかを見極め、それらが十分手当てされているかという点を意識してチェックする必要があります。

契約内容が強行法規に反してしまう

契約をどのような内容にするかについては基本的に当事者が自由に合意することができます。しかし、当事者の意思がどのようなものであっても法律で強制的に適用される規定があります。「強行法規」又は「強行規定」といい、これに反する契約内容は無効となってしまいます。例えば、建物賃貸借契約において期間満了時に物件のオーナー(賃貸人)が自由に更新を拒絶できるという内容は無効です(借地借家法第28条・30条)。また、利息制限法、下請法、消費者契約法、労働法などの法分野では主として弱者保護の観点から強行法規が多く含まれています。強行法規に反する契約を締結することは、単に契約上の権利を実現できないという不利益を被るだけではありません。コンプライアンス違反というリスクを抱えることにもなるので注意が必要です。

文言が適切でなく権利が実現できないおそれ

契約書は相手方に行って欲しい事項を明文化するものであり、その内容は権利又は義務という形で規定します。しかし、それらを適切な文言で表現しないといざ法的手段で契約内容を実現しようとしてもできないことがあります。例えば、契約の条項の中で「~するよう努めるものとする」とされているのは努力義務に過ぎませんし、「甲は、不具合の責任が甲にあると認めた場合には乙に対して損害を賠償するものとする」とされている場合、損害賠償責任が相手方(甲)の認識に左右されてしまいます。いずれも法的な請求をするための文言としては不適切といえます。

また、契約内容は当事者以外の第三者が見て内容が明確であるものとする必要があります。トラブルがこじれて法的な紛争に発展した場合、契約内容を審査するのは第三者たる裁判官です。当事者以外の者にとっても契約書を見て「誰が何を請求できる」かが明らかになっていなければなりません(製品名など固有名詞はやむを得ませんが)。契約書の文言の中で業界特有の用語を用いている場合には可能な限り第三者にも分かる表現に言い換えるなどの工夫をするべきでしょう。

自社に法務部員や顧問弁護士がいない

自社に専任の法務担当者がいる場合、契約内容について法務の観点からのチェックをすることができます。また、法務担当者がいなくとも弁護士に依頼していれば専門家のアドバイスが得られます。しかし、自社に法務担当者も顧問弁護士もいない場合には、そのような対応はできず、特に法務のスキルのない方が契約書をチェックせざるを得なくなります。そうすると、契約書に含まれる様々な法的リスクや留意点について気付くことができず、適切に修正がなされないままとなってしまうおそれがあります。

最近は企業における法務リスクの意識が高まりつつあると感じます。法務担当者を置いたり弁護士に依頼するための予算を割くことも増えてきていると思います。仮に、相手方において契約書チェックの体制が整っているのに対し、自社がそうなっていない場合には、どうしても契約書を「書き負け」てしまうと思います。そうすると、契約内容が実際のビジネス上の力関係以上に相手方に有利なものとなってしまうおそれがあります。

何かあっても話合いで解決できると考えてしまう (法的な紛争になる可能性をイメージできていない)

取引先との間で何らかのトラブルになることは幾度となくあるでしょうが、そのようなトラブルが訴訟などの法的な紛争にまで発展することは少ないといえます。ビジネス上のトラブルの多くはどちらかの当事者が折れたり何らかの妥協点を見出すことによって解決することが圧倒的に多いからです。そのせいか、何かあっても話し合いで解決できると考えてしまい、どうしても契約書に対する意識が高くないという会社もあると思います。契約書のチェックも疎かになりがちといえます。

しかし、常に話合いによる解決ができるとは限りません。金額が大きな問題であったり、会社に深刻な影響を与える問題であったりすると、やむを得ず法的な手段をとらざるを得ないことがあるからです。これまで訴訟に巻き込まれる、あるいは自ら法的な手続きをとることがなかったのは偶々そうであったというだけです。自社は訴訟の当事者にはならないというのは希望的観測に過ぎません。どれだけ真面目に会社を経営していてもそのようなリスクは排除できないからです。そして、正にそのような場面で決定的な役割を果たすのは契約書です。契約書は当事者の権利義務を認定するための最重要の証拠であり、訴訟では契約書に書かれていた一文が決め手となって勝敗が分かれることもあります。契約書を作成・チェックする場面においては、その内容が将来の紛争の結果を左右し得るということを意識し、内容や文言に細心の注意を払う必要があります。

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