契約書
秘密保持契約書(NDA)の実践的雛形と重要ポイント
投稿日 : 2018年02月17日秘密保持契約書(NDA)の実践的な雛形と検討にあたっての重要なポイントについて解説します。
秘密保持契約とは
秘密保持義務について定める契約書です。会社同士が新規の取引を開始することを検討している段階においては、お互いが持っている情報を開示し、実際に取引を行うことができるか否かを調査します。もっとも、取引先ではない相手方に対して正式契約がない段階で自社の情報を開示することは情報漏えいのリスクが伴います。そこで、そのようなリスクを回避するため、一方当事者が開示した情報を他方当事者が第三者に開示、漏えいしないことを義務付けるとともに、情報の目的外使用を禁じるのが秘密保持契約です。
なお、秘密保持契約は、それを英語にしたNon-Disclosure Agreementの頭文字をとってNDAと略されることがあります。
秘密保持契約書の実践的な雛形
秘密保持契約の雛形は以下のとおりです。
秘密保持契約書
○○株式会社(以下、「甲」)と△△株式会社(以下、「乙」)は以下のとおり秘密保持契約(以下、「本契約」)を締結する。
第1条 (目的)
本契約は、両当事者間における××の取引の実現可能性と取引条件を検討する目的(以下、「本目的」)のため、秘密情報の取扱いについて定めるものとする。
第2条 (秘密情報の定義)
本契約において、「秘密情報」とは、情報を開示する当事者(以下、「開示当事者」)が情報を受領する当事者(以下、「受領当事者」)に対して開示する情報であって、営業上、技術上又は業務上の情報を含むものをいう。秘密情報には、開示当事者が秘密である旨を示して開示した情報、及びパスワード付で提供された情報が含まれるがこれらに限られない。ただし、以下の情報は秘密情報には含まれないものとする。
(1) 開示の時点で既に公知であった情報
(2) 開示の時点で受領当事者が知っていた情報
(3) 開示後、受領当事者の責に帰する事由によらずして公知となった情報
(4) 開示後、権限を有する第三者より受領当事者が秘密保持義務を負うことなく適法に受領した情報
第3条 (秘密保持義務)
(1) 受領当事者は、秘密情報を第三者に開示、漏えいしてはならないものとする。
(2) 受領当事者は、秘密情報を秘密として管理するものとする。秘密情報の管理においては、秘密情報への不正なアクセスや秘密情報の不正な持ち出しを防止するために必要な安全対策を講じるものとする。
(3) 受領当事者は、本目的のために必要な範囲において秘密情報を複写又は複製することができる。ただし、受領当事者は、当該複写又は複製された情報も秘密情報として扱うものとする。
(4) 第1項の定めにかかわらず、受領当事者は、本目的のために必要な範囲で弁護士、公認会計士、税理士等の外部専門家に対して秘密情報を開示することができる。ただし、外部専門家による秘密保持義務の違反は受領当事者による違反とみなす。
(5) 第1項の定めにかかわらず、受領当事者は、法令の規定に基づいて官公庁、裁判所等の公的機関から秘密情報の開示の求めがあった場合、秘密情報を開示することができる。ただし、受領当事者は直ちに開示当事者にかかる開示がなされたことを通知するものとする。
第4条 (社内における共有)
(1) 受領当事者は、社内で秘密情報を共有することができる。ただし、受領当事者は、秘密情報を共有する役職員を本目的のために必要な範囲に限定するものとする。
(2) 受領当事者は、秘密情報を共有する役職員に対し、本契約に定める受領当事者の義務を説明し、遵守させるものとする。
第5条 (目的外使用の禁止)
受領当事者は、本目的のためにのみ秘密情報を使用するものとし、本目的以外の目的で秘密情報を使用してはならない。
第6条 (秘密情報の消去等)
(1) 受領当事者は、開示当事者から求めがあった場合、又は第8条(1)に従って本契約が終了した場合、秘密情報に関し以下の措置をとるものとする。
ア 電子的なデータを復元不可能な方法で消去する
イ 秘密情報を含む書面及び記録媒体を開示当事者の指示に従い、破棄又は返還する
(2) 受領当事者は、開示当事者から求めがあった場合、前項に従って秘密情報を消去等したことを証する書面を提出するものとする。
第7条 (損害賠償)
受領当事者が本契約に違反し、それによって開示当事者が損害を被った場合、受領当事者は当該損害を賠償する責任を負うものとする。
第8条 (違反行為の差止め)
受領当事者が本契約に違反し、又は違反するおそれがあると開示当事者が合理的に判断した場合、開示当事者は当該違反行為の差止め及び損害賠償請求のために訴訟を提起し又は仮処分を申し立てることができる。
第9条 (契約期間)
(1) 本契約の有効期間は締結より__年間とし、有効期間の満了によって終了するものとする。
(2) 本目的の対象となっていた取引を行うための正式契約が締結された場合において、当該正式契約に秘密保持義務についての定めがあるときは、有効期間前であっても本契約は終了し、秘密情報の取扱いは当該正式契約に定める規定に従うものとする。
第10条 (協議解決)
本契約に関して生じた紛争については、両当事者が誠実に協議してその解決にあたるものとする。
第11条 (合意管轄)
本契約に関して生じた紛争について前条の協議が整わない場合、__地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所として裁判によって解決する。
本契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、各当事者が記名押印のうえ、各1通を保有する。
令和__年(20XX年)__月__日
甲 東京都xxxxxxxxx
○○株式会社
代表取締役xxxxxxx 印
乙 東京都xxxxxxxxx
△△株式会社
代表取締役xxxxxxx 印
秘密保持契約書の各条項の解説
以下、条項ごとに検討のポイントを解説します。
第1条 (目的)
本契約は、両当事者間における××の取引の実現可能性と取引条件を検討する目的(以下、「本目的」)のため、秘密情報の取扱いについて定めるものとする。 |
【解説】
契約の目的は多くの契約で規定されているものの、通常は当事者の権利義務に直接影響することはありません。しかし、秘密保持契約においては重要な役割があります。すなわち、秘密情報は契約の目的の範囲内でのみ使用することが許され、目的の範囲外のために使用することは許されません(第5条)。そのため、秘密保持契約の目的条項はどの範囲において秘密情報の使用が許されるのかを意識して記載する必要があります。
第2条 (秘密情報の定義)
本契約において、「秘密情報」とは、情報を開示する当事者(以下、「開示当事者」)が情報を受領する当事者(以下、「受領当事者」)に対して開示する情報であって、営業上、技術上又は業務上の情報を含むものをいう。秘密情報には、開示当事者が秘密である旨を示して開示した情報、及びパスワード付で提供された情報が含まれるがこれらに限られない。ただし、以下の情報は秘密情報には含まれないものとする。 (1) 開示の時点で既に公知であった情報 (2) 開示の時点で受領当事者が知っていた情報 (3) 開示後、受領当事者の責に帰する事由によらずして公知となった情報 (4) 開示後、正当な権限を有する第三者より受領当事者が秘密保持義務を負うことなく適法に受領した情報 |
【解説】
秘密情報を定義する条項です。上の条項例では、開示当事者が開示した情報のうち、営業上、技術上又は業務上の情報を含むものとしています。
当事者間で交わされる情報には様々な内容が含まれ、特に口頭でのやりとりでは案件とは直接かかわらない雑多な情報交換もなされます。そのうち、秘密としての厳格な管理を求めるのは業務等に関連する情報で足りるはずです。そのため、開示当事者が開示した情報を全て秘密情報とするのではなく、合理的な範囲に限定しています。
なお、秘密情報の開示の方法は様々でしょうが、現在では電子メールやその添付ファイル等、電子データの形式でやりとりされることが多いのではないかと思います。電子データは場所をとらず、コピーが容易というメリットがありますが、その反面、一旦外部に流出してしまうと回収は不可能でどこまでも拡散してしまうリスクがあります。適切にパスワードを設定する等の対策が必要です。
第2文では、「秘密情報には、開示当事者が秘密である旨を示して開示した情報、及びパスワード付で提供された情報が含まれるがこれらに限られない。」としています。これらの情報は開示当事者が秘密情報であることを明示又は黙示で示して開示しているものなので、当然に秘密情報に含まれることを確認的に規定するものです。もちろん、これらはあくまでも例示に過ぎないので、秘密である旨を示さなくとも、また、パスワード付でない情報であっても、業務等に関連する情報である限りは秘密情報に含まれます。
秘密情報の範囲について受領当事者が自社に有利に変更しようとすれば、秘密情報を開示当事者が秘密である旨を記録に残る方法で示したものに限定することが考えられます。例えば、「秘密情報とは、開示当事者が受領当事者に対し秘密である旨を明示して開示した情報をいう。口頭で提供された情報については、開示当事者が提供後に秘密情報となるべき範囲を書面で特定した場合のみ秘密情報に含まれる。」とすることが考えられます。
ただし書き以下においては、秘密情報の例外が定められています。(1)から(4)として示された例外の内容は、いずれも受領当事者に守秘義務を負わせるのが適切でないケースを挙げています。例外の(1)は公知の情報である以上、要保護性が低いものです。仮に受領当事者が開示当事者による開示の時点で知らなかったとしても、一般に入手可能な情報である以上、守秘義務の対象とする理由はありません。例外の(3)として挙げられている、開示後、受領当事者の責に帰する事由によらずして公知となった情報も同様です。
例外の(2)として挙げられている、開示の時点で受領当事者が知っていた情報については、それまで受領当事者が開示当事者との関係で守秘義務を負っていたわけではないことから、これを開示当事者から受領したからといって新たに守秘義務を負わせるべきではありません。
例外の(4)として挙げられている、開示後、正当な権限を有する第三者より受領当事者が秘密保持義務を負うことなく適法に受領した情報は、少し複雑です。これは、受領当事者が開示当事者から情報を受領した後、別の第三者から同じ情報を守秘義務を負うことなく受領したケースに関するものです。そのような場合、受領当事者は当該第三者との関係で守秘義務を負わず、自由に開示等ができる以上、開示当事者との関係でも最早秘密情報として扱わないという考えによるものです。
開示された情報がこれらの(1)から(4)の例外にあたるか否かの立証責任は、契約の文言上、受領当事者が負っているものと解されます。そのため、受領当事者としては、これらの例外にあたることを示す事実を記録として残しておくのが安全といえます。また、開示当事者の立場からは、例外に該当するための要件として「秘密情報の例外にあたることを受領当事者が客観的な証拠で示した場合に限る」などの縛りをかけることが考えられます。
第3条 (秘密保持義務)
(1) 受領当事者は、秘密情報を第三者に開示、漏えいしてはならないものとする。 (2) 受領当事者は、秘密情報を秘密として管理するものとする。秘密情報の管理においては、秘密情報への不正なアクセスや秘密情報の不正な持ち出しを防止するために必要な安全対策を講じるものとする。 (3) 受領当事者は、本目的のために必要な範囲において秘密情報を複写又は複製することができる。ただし、受領当事者は、当該複写又は複製された情報も秘密情報として扱うものとする。 (4) 第1項の定めにかかわらず、受領当事者は、本目的のために必要な範囲で弁護士、公認会計士、税理士等の外部専門家に対して秘密情報を開示することができる。ただし、外部専門家による秘密保持義務の違反は受領当事者による違反とみなす。 (5) 第1項の定めにかかわらず、受領当事者は、法令の規定に基づいて官公庁、裁判所等の公的機関から秘密情報の開示の求めがあった場合、秘密情報を開示することができる。ただし、受領当事者は直ちに開示当事者にかかる開示がなされたことを通知するものとする。 |
【解説】
受領当事者に対して秘密保持義務を課する条項です。秘密保持契約の中核的な義務を定めるものといえます。
本条の(1)は第三者への秘密情報の開示、漏えいを禁止しています。これは受領当事者の故意による情報開示と、過失によって情報が外部に流出してしまうことの両方を含むと解されます。
本条の(2)は秘密情報を秘密として管理することを求めるものです。適切な情報管理がなされていれば過失による情報漏えいリスクを抑えることができるはずです。第1文の「秘密として管理する」というだけでは抽象的であり、何をどこまですれば良いか必ずしも明らかではありません。そこで、第2文において受領当事者がとるべき安全対策の内容を示しています。この点、開示当事者の立場からは、安全対策の内容をより具体的に規定することが考えられます。例えば、「電子ファイルにはパスワードを設定する」「書面及び記録媒体は施錠箇所に格納する」などです。逆に、受領当事者の立場からは、管理の負担が過大にならないよう「自己の情報と同等の安全対策を講じる」と規定することが考えられます。
なお、開示当事者の立場からは、秘密としての管理に加え、受領当事者に情報のコンタミネーション(混入)を防止する措置をとるよう求めることも考えられます。情報のコンタミネーションとは、本件のようなケースでは、開示当事者から提供された秘密情報と、受領当事者が保有している情報が渾然一体となってしまう事態をいいます。情報のコンタミネーションが起こると何が秘密情報であるかが分からなくなり、受領当事者が適切に秘密情報を扱うことができなくなってしまいます。そこで、開示当事者としては受領当事者に対して秘密情報を区別して保存・保管するべきことを義務付けることが考えられます。
本条の(3)は秘密情報の複写、複製に関するものです。この雛形では受領当事者に複写、複製を許すものとしています。実際上、受領当事者の側で秘密情報に関与する役職員が複数になる場合、複写、複製ができないと情報の共有に支障を来たすことがあると思われます。開示当事者の立場からすれば、情報漏えいリスクをコントロールする観点から、開示当事者の承諾を得た場合にのみ複写、複製ができると規定することも考えられます。
本条の(4)は秘密保持義務の例外として外部専門家に対して秘密情報を開示できるとするものです。受領当事者は様々な必要性から外部専門家にアドバイスを求めることがあります。その際、秘密情報を開示することができないと不都合であり、そのため本項のような例外事由が定められています。また、通常、弁護士等の外部専門家は法令上の守秘義務を負っており、情報を開示しても類型的に情報漏えいリスクは低いといえます。
本条の(5)も同じく秘密保持義務の例外を定めるものであり、法令の規定に基づいて官公庁、裁判所等の公的機関から秘密情報の開示の求めがあった場合を規定しています。公的機関による開示の命令等があったときに情報開示を禁じるのは酷であり、開示を認めるのが一般的であるといえます。
第4条 (社内における共有)
(1) 受領当事者は、社内で秘密情報を共有することができる。ただし、受領当事者は、秘密情報を共有する役職員を本目的のために必要な範囲に限定するものとする。 (2) 受領当事者は、秘密情報を共有する役職員に対し、本契約に定める受領当事者の義務を説明し、遵守させるものとする。 |
【解説】
受領当事者の社内においては多くの場合、秘密情報が一定の範囲で共有され、検討の対象になると思われます。そこで、本条は受領当事者の社内における秘密情報の共有の範囲を定めるとともに、秘密情報を共有する役職員に秘密保持義務を遵守させるべきことを定めています。
第5条 (目的外使用の禁止)
受領当事者は、本目的のためにのみ秘密情報を使用するものとし、本目的以外の目的で秘密情報を使用してはならない。 |
【解説】
情報の目的外使用に関する条項です。秘密保持義務とともに重要な義務であるといえます。秘密保持契約において秘密保持義務に関する規定を欠くことは考えにくいですが、目的外使用の禁止について規定を置いていない契約を目にすることはあります。
目的外使用が禁止されていない場合、受領当事者は契約に定めた目的(何らかの取引の検討など)以外の目的であっても秘密情報を用いることが許されてしまいます。例えば、秘密情報を自社の研究開発に利用する、秘密情報を用いて開示当事者の顧客を奪う、などです。そのような行為を禁ずるため、開示当事者の立場からすれば目的外使用の禁止は必ず入れておかなければなりません。
本条の目的外使用の禁止は第1条に規定する目的によってその範囲が定まります。そのため、契約の目的を適切な範囲に限定しておく必要があります。
第6条 (秘密情報の消去等)
(1) 受領当事者は、開示当事者から求めがあった場合、又は第8条(1)に従って本契約が終了した場合、秘密情報に関し以下の措置をとるものとする。 ア 電子的なデータを復元不可能な方法で消去する イ 秘密情報を含む書面及び記録媒体を開示当事者の指示に従い、破棄又は返還する (2) 受領当事者は、開示当事者から求めがあった場合、前項に従って秘密情報を消去等したことを証する書面を提出するものとする。 |
【解説】
秘密情報の消去等について定める条項です。秘密保持契約の終了前であっても、契約の目的となっている取引を行わないこととなった場合、開示当事者としては情報の消去等を求めたいと考えるはずです。そこで、契約終了前であっても開示当事者から求めがあった場合には、受領当事者は秘密情報を消去等するものとしてあります。
本条の(2)では秘密情報を消去等したことを証する書面について規定しています。もっとも、これは受領当事者による自己申告である以上、実際に消去等することの実効性を高めることはあまり期待できません。このような書面を徴することが開示当事者側の社内手続き上必要である場合において、それを満たすこと以上の意味はないと思われます。
第7条 (損害賠償)
受領当事者が本契約に違反し、それによって開示当事者が損害を被った場合、受領当事者は当該損害を賠償する責任を負うものとする。 第8条 (違反行為の差止め) 受領当事者が本契約に違反し、又は違反するおそれがあると開示当事者が合理的に判断した場合、開示当事者は当該違反行為の差止め及び損害賠償請求のために訴訟を提起し又は仮処分を申し立てることができる。 |
【解説】
契約に違反して相手方に損害を与えた場合、当該違反した当事者は民法に従って相手方にその損害を賠償する責任を負います。そのため、第7条は法律上当然に認められる権利義務を確認的に規定しているに過ぎません。
同様に、第8条に関しても、受領当事者が本契約に違反し、又は違反するおそれがあると開示当事者が判断した場合、法律の規定に従って、開示当事者は当該違反行為の差止め及び損害賠償請求のために訴訟を提起し又は仮処分を申し立てることができます。実際に差止めや差止めの仮処分が認められるか否かはやってみなければ分かりませんが、いずれにしても受領当事者が裁判所に提訴等をすることは法律上認められています。
もっとも、これらの条項のように法律上当然に認められる権利義務であっても、契約違反の効果を記載しておくことで違反に対する心理的な抑止効果はないとはいえません。そのため、契約に定めておくことに一定の意味はあるといえます。
第9条 (契約期間)
(1) 本契約の有効期間は締結より__年間とし、有効期間の満了によって終了するものとする。 (2) 本目的の対象となっていた取引を行うための正式契約が締結された場合において、当該正式契約に秘密保持義務についての定めがあるときは、有効期間前であっても本契約は終了し、秘密情報の取扱いは当該正式契約に定める規定に従うものとする。 |
【解説】
秘密保持契約の契約期間について定めるものです。契約期間が満了すれば受領当事者は秘密保持義務を負わず、また、目的外使用の禁止の義務も負わないことになります。そのため、開示当事者の立場からはなるべく長めに設定したいということになり、受領当事者の立場からすれば短めにしたいというインセンティブが働きます。実際には情報の性質や陳腐化する早さなどを考慮して1年から3年程度の範囲内で定められることが多いと思われます。本条(1)に従って契約が終了した場合、第6条によって受領当事者は秘密情報を消去等する義務を負います。
これに対し、秘密保持契約の目的となっていた取引を行うための正式契約が締結された場合には、秘密保持義務は当該正式契約に引き継がせるのが便宜でしょうし、それが当事者の意思にも沿うと考えられることから、本条(2)ではその旨規定しています。
第10条 (協議解決)
本契約に関して生じた紛争については、両当事者が誠実に協議してその解決にあたるものとする。 第11条 (合意管轄) 本契約に関して生じた紛争について前条の協議が整わない場合、__地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所として裁判によって解決する。 |
【解説】
紛争解決について定める条項です。第10条は紛争を協議によって解決することを定めるものですが、法的には実質的な意味がある条項ではありません。
重要なのは第11条の専属的合意管轄条項です。これは当事者が訴訟を提起する際にどの裁判所に提訴するかをあらかじめ定めておくもので、この条項で規定した裁判所以外に提訴することはできなくなります。より正確には、専属管轄を有する裁判所以外に提訴した場合であっても相手方が応訴すればその裁判所で審理を行うことができますが、相手方から専属的管轄に違反すると主張されるとその訴えは却下(門前払い)されます。
当事者の所在地が離れている場合には合意管轄をどちらに近い裁判所とするかが交渉上の争点となり得ます。最終的には交渉力によって定まる問題ではありますが、どうしても合意しにくい場合には、専属的合意管轄を定めないということも可能です。その場合、原則として訴えられる側(被告)の所在地を管轄する裁判所に提訴することになります。
秘密情報の提供に関する留意点
秘密保持契約は受領当事者に秘密保持義務と目的外使用の禁止を課していますが、特に注意が必要なのは目的外使用の禁止です。一旦秘密情報が受領当事者に渡ってしまうと実際に秘密情報をどのように取り扱い、何のために利用しているかは分かりません。仮に開示当事者から見て相手方の目的外使用が疑われる場合であっても、それを立証することは困難です。
さらに、情報は一度渡してしまうとそれを消去、回収することも困難です。契約上は受領当事者において秘密情報の消去等をする義務が定められていますが、実際に消去等したか否かは受領当事者に委ねられています。
結局、秘密保持契約だけで自社の秘密情報を保護することには自ずと限界があるといえます。そのため、自社のビジネスの根幹に関わる重要な情報、例えば主力製品の製造ノウハウなどは秘密保持契約を締結しても開示するべきではありません。
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