会社法
取締役の解任の正当理由に関する実例
投稿日 : 2019年04月14日取締役を解任する場合に正当な理由が認められた事例や認められなかった事例を紹介します。
取締役の解任の方法や注意点についてはこちらの記事(取締役を解任する方法と注意点)をご参照ください。
特定の業者と癒着して不当な利益を図った行為を理由とする解任
代表取締役であったXにつき、①会社が管理する予定であった駅ビルのテナント候補会社A社の取締役に就任し、その事実を他の役員や親会社に隠して出店申込みをした、②他の駅ビルの開発事業に関して取締役会に諮ることなく設計請負契約を締結し、多額のリベートをA社関係者に取得させた、という事実関係の下、Xは代表取締役を解職・解任された。
裁判所の判断:正当理由あり
【東京地判平8・8・1商事1435号37頁】
病気の悪化を理由とする解任
代表取締役であったXの持病が悪化したので、会社の業務から退き療養に専念するため、保有していた会社の株式全部を別の取締役に譲渡し、代表取締役も交替した。その後、株主総会においてXは解任された。
裁判所の判断:正当理由あり
【最判昭57・1・21判時1037号129頁】
税務処理上の過誤を犯したこと等を理由とする解任
監査役Xは、税務当局から否認されることを知りながら、会社の税務処理として価格変動準備金を計上したところ、かかる税務処理は税務当局から否認され、会社は更正処分を受け、延滞金及び重加算税等の支払いを余儀なくされた。会社は税務処理上の過誤を犯したこと等を理由にXを解任した。
裁判所の判断:正当理由あり
【東京高判昭58・4・28判時1081号130頁】
会社の乗っ取りを企てていると曲解されたことによる解任
会社の大口販売先に対する代表取締役Yの取引態度に問題があったことから、他の全取締役が会社の将来のためこれを放置することが出来ないと考え、Yの態度改善を要求する旨の書面を作成した。取締役Xがこれを役員会において全取締役を代表して朗読したところ、Yは、これをXが会社を乗っ取ろうとして、Xが中心になってなしたものだと曲解した。YはXの会社への出勤を妨害し、暴力をふるい、さらに株主総会を招集してXを解任した。
裁判所の判断:正当理由なし
【大阪高判昭56・1・30判時1013号121頁】
会社代表者と折り合いが悪くなり社内で孤立したことによる解任
取締役Xについて、①感情の起伏が激しく、また協調性に欠けるところがあるとして、会社内で孤立していた、②入社して以来10年余に亘って会社に勤務してきたものであり、その間取締役に就任するなどしているところに照らせば、Xはむしろその力量を評価せられ、重んじられていたとさえいえる、③Xの性格や行状に、会社内で勤務を継続していくことができない程の特段の問題点があったわけではない、④基本的には真面目で生一本な性格であり、仕事熱心で被告会社に対してもそれなりに貢献するところがあった、⑤それにも拘らず、Xが会社内で顕著に孤立するようになったのは、次第に会社代表者との折合いが悪くなったことに最大の原因がある、という事実関係の下、Xは取締役を解任された。
裁判所の判断:正当理由なし
【東京地判昭57・12・23金判683号43頁】
株式投資等によって会社に損失を与えたことを理由とする解任
代表取締役Xについて、①取締役として通常どおりの職務の遂行が可能であるとは考え難く、職務の遂行に対する意欲も失われていた、②自己の株式取引による損失の穴埋めのための借入金の担保として会社の定期預金を提供し、それについての取締役会の承認があったといえるか疑問であって、商法(当時)に違反する疑いが濃厚である、③株式取引への熱中ぶりは尋常とはいい難く、経営者としての適格性に疑いがある、④多額の株式の信用取引やインパクトローンという投機性の高い取引を独断で行い、結果的に多額の損失を会社に与えたものであって、これは、代表取締役としての経営判断の誤りと評価すべきである、という事実関係の下、Xは取締役を解任された。
裁判所の判断:正当理由あり
【広島地判平6・11・29判タ884号230頁】
事業遂行能力の不足を理由とする解任
取締役Xについて、会社の取締役に就任したのはボウリング事業を事業として行うためであったところ、同事業の売上はわずかにとどまり、Xにはボウリング事業を展開していくだけの能力がなかった、そのため、会社代表者はボウリング事業から撤退するとの経営判断をした、との事実関係の下、Xは取締役を解任された。(会社代表者との協議の経緯からXによる損害賠償請求は信義則上許されないとも認定されている)
裁判所の判断:正当理由あり
【横浜地判平24・7・20判時2165号141頁】
取締役の任期の開始前の事由に基づく解任
取締役Xについて、不正経理及び社員総会ないし株主総会の不開催があったことを理由に一度取締役を解任され、その後再任された後、取締役の解任の訴えを提起された。
裁判所の判断:取締役の任期の開始前に生じた発生・判明した事由は、取締役の解任の訴えにおける解任事由に当たらない。
【京都地宮津支判平21.9.25判時2069号150頁】
新株発行により株主の信頼感を喪失させたことや不適切な言動に基づく解任
取締役Xについて、①株主に事前説明なく株主割当ての方法で新株を発行し、失権株を生じさせ、それによって株主の信頼感を喪失させた、②会社のグループ会社の業務に関して不適切な言動があった、との事実関係の下、Xは取締役を解任された。
裁判所の判断:正当理由なし
【名古屋地判昭63・9・30判時1297号136頁】
オーナー一族の意向を無視した独断専行の行為に基づく解任
取締役Xについて、①創業者の死亡後、オーナー一族の意向を無視して独断専行の挙に出るようになり、②妻を取締役に就任させ、③代表取締役を解職された後も一族出身の新たな代表取締役に業務の引継ぎをせず、その業務を妨害し、従業員を混乱させ、④これらの結果、Xが取締役として業務を執行するにつき著しく信用を喪失した、との事実関係の下、Xは取締役を解任された。
裁判所の判断:正当理由あり
【大阪地判平10・1・28労判732号27頁】
会社に対する敵対行為に基づく解任
取締役Xについて、①自らに対する人事異動の打診行為を批判し、会社や会社代表者の数々の問題点、疑問点を挙げ連ねて会社批判を繰り返し、上記打診がある前にはXには全く見受けられなかったところの被告への敵対行動に出た、②会社の不祥事に関する情報を週刊誌に提供した、③会社や会社代表者の信用は損なわれ、取引及び収益の減少も相当程度生じている、との事実関係の下、Xは取締役を解任された。
裁判所の判断:正当理由あり
【東京地判平18・8・30労判925号80頁】
まとめ
取締役の解任に正当な理由があったか否かは会社の損害賠償責任の有無を決する重要な事項です。正当な理由があることについては会社に立証責任があります。会社としては取締役を解任しようとする場合、どのような事由をもって解任の理由とするか、それをどのように立証するかを慎重に検討する必要があるといえます。本稿で挙げた事例が参考になれば幸いです。
会社法に関して他にもお役に立つ記事を掲載しています。
【記事カテゴリー】会社法
会社法に関して弁護士に相談することができます。
【業務案内】株主・取締役・株式等に関するアドバイス
-
サイト管理人/コラムの著者
弁護士 赤塚洋信
アドバイスの実績は100社以上。
企業・法人の方にビジネスに関する法律サービスを提供しています。 -
電話・メールによるお問合せ
林総合法律事務所
TEL.03-5148-0330
(弁護士赤塚をご指定ください)メールによるお問合せは
こちらのページ -
業務案内